「お! どうかしたか?」
「彼女に手紙書いたんだ」
「それで」
「20時にここへ来て欲しいって」
「それで来るのか?」
「分からない。でも愛は来ると、信じている」
サンタクロースと少し話したあと、教会に掲げられた時計を見ると、20時になる10分前だった。
そして20時。
栗栖はすぐに会うことを恐れ、物陰に隠れる。しかし、彼女は現れない。
10分過ぎでも、20分経っても現れない。
そして20時半。枡野愛が姿を現した。
「すみませ~ん」
まだ元気を取り戻せず、懸命に出した久々に聞く枡野の声に、涙が出そうになる。
「枡野愛さんだな」栗栖は、締め付けられる胸の痛みを感じながら、枡野に声色を少し変え問うた。
「はい。あなたは?」
「今は、栗栖聖也を知る者、と言っておこう」
「手紙に書いている、聖也の知っていることを全て教えて下さい」
「教える前に1つだけ知りたい。なぜ、交際期間たったの2ヶ月なのに、そんなにショックを受ける」
栗栖自身、ずっと気になっていたことではあった。2ヶ月前まで赤の他人だった人が亡くなった。普通なら、ショックを受けることはあるだろうが、精神科に入院するほどではない。
「私は聖也と付き合う前まで、黒井三太という男と付き合っていました。でも黒井は暴力男で、それを救ってくれたのが聖也でした。私にとっては命の恩人であり、かけがえのない人です。たった2ヶ月でも、私は聖也と一緒に生きて行きたいと思うようになりました。でも聖也はもう……」
栗栖は今すぐにでも飛び出し枡野の前に現れたかった。でも伝えたいことがあり、今はまだ、栗栖聖也を知る者、というお面を取るわけにもいかなかった。
「そう。栗栖聖也は死んだ。君の立っているそこで」
「え!ここで」枡野は立っている地面に目を向けた。
「そう。そこで、君の元カレである黒井三太の手によって」
「教えて下さい。私が眠っていたときに起こったことを。なぜ、聖也は殺されなければならなかったんですか? それもこの教会で」
栗栖は、3年前、枡野が交通事故に遭って眠っていたときの行動を全て話した。
毎日、神社に通っていたこと。そしてクリスマスのときにこの教会に来て、祈ったこと。
「栗栖聖也は君を心の底から愛していた。そのことだけは忘れないで欲しい。枡野愛さん。まだあなたは栗栖聖也を失くしたショックから立ち直っていないでいる。でも、これだけは言わせて欲しい。いつも栗栖聖也はあなたの隣に寄り添っていると」
栗栖がそう告げると、枡野は膝から崩れ落ち、泣き始めた。時折「聖也」と声に出しながら。
「で、ここからが枡野愛さんをこんな場所に呼び出した目的になるのだが。枡野愛さん。今日が何の日か分かるかな」
枡野は少し考えたあと「クリスマス」と答えた。
「そう、クリスマス。クリスマスにはプレゼントが必要不可欠である。毎日毎日、栗栖聖也のことを思い続けた枡野愛さんに、私からプレゼントがある」そう言った栗栖の耳元でサンタクロースが「今度は君が儂になるのか!?」とおどけていた。
「プレゼント?」
「そう。とても素晴らしいプレゼント。だから、枡野愛さん。目を瞑っていて欲しい」
枡野は、言われるがまま、目を瞑った。
そして、枡野の前に栗栖が姿を現した。
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