サンタが与えたもの ~ Last season ~ 第四夜

  • 超短編 803文字
  • シリーズ

  • 著者: 3: 寄り道
  •  運が悪いのか、当たり前というべきか、三年前に住んでいた栗栖のマンションのベランダには洗濯物が干されたあり、新しい住人がいた。
     しかし、思い出したこともあった。ドアの横に消火器ボックスがあり、その中の上に、スペアキーを、テープで張り付けていることを。
     そこまで行くためには、マンションの自動ドアが開かないと、中に入れないため、出て来る人を待った。
     そしてその時が訪れる。
     怪しまれないよう、自然を装いマンションに入り、監視カメラを危惧し、カメラのない非常階段で向かう。
     ドアの前まで来て、横にある消火器ボックスを開け、手探りで確かめる。
     あった!
     中に住人がいるかもしれない。だが、雪は降ってはいないが3年ぶりに味わう寒空の中、住人が出て行くのを待つもの身が持たないし、出て来ない可能性だってある。そのため、栗栖は侵入することに決めた。
     鍵が変わってないことを祈り、鍵穴にキーを差し込み、ゆっくりと回す。
     ガチャリ。開いた。そして幸いにも、ドアチェーンはされていない。
     侵入する。もう、空き巣だ。泥棒だ。犯罪者だ。
     住人は寝室で寝息を立てている。
     起こさないために、静かに靴を脱ぎ、物音を立てず家に入るが、そもそも目的もなしに入ったため、何をしようか悩んでいると、テーブルの上に財布を見つける。
     分かっている。こんなことは、赦されないことである。しかし、背に腹は代えられない。
     財布を開き、数枚あった1万円札を1枚だけ抜く。
     これでどうにかなるだろうと、玄関に向かう。
     まだ住人は寝ている。
     しっかりと靴を履く余裕はないため、踵を潰し、家を出る。
     ゆっくりと施錠し、非常階段に向か。
     当たり前だが、犯罪を犯したのは初めてであった栗栖の心臓は、はち切れそうだった。これもまた久々に味わう心臓の鼓動に、改めて生きている実感が湧いた。
     1万円あるがこれからどうするか。まずは寒さをしのぐために、カプセルホテルに向かった。そこなら、身分証もいらないだろう。

    【投稿者: 3: 寄り道】

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