サンタが与えたもの ~ Last season ~ 第二夜

  • 超短編 1,335文字
  • シリーズ

  • 著者: 3: 寄り道
  •  12月24日。23時50分。
     栗栖はもう既に、教会の左右に並べられた長椅子の一番前に立っていた。
     早く、0時なれ! この日をどんだけ待ち侘びていたことか。恐らく、子どもの頃よりも待ち侘びていた。

     12月25日。0時0分。
     栗栖の目の前に、サンタクロースが現れる。
    「やっとこの日が来ましたよ」
    「長かったか?」
    「そりゃあもう。疲れました」
    「幽霊なのに疲れたと」ホッホッホと笑ったあと「それで、今年こそ、願いは生き返らせて欲しい、ってことで良いんだな?」
    「ああ。お願いします」
    「でもここで1つ問題がある。君を生き返らせることは簡単だ。でも、初めて会ったときに言った通り、プレゼントとはそのものと同額あるいは同価値のものを儂に授けないと渡せない決まりじゃ。だが今の君に、生き返らせるための心と同価値のものを、儂に授けられるかね?」
     栗栖は無言なる。そして怒りが沸く。
     やはり生き返られないのだと知った。不可能はない、といってはいたが、そうやって無理難題を押し付け、人を騙す。詐欺師だ。
     2年にも渡り、奇跡のような体験をしてきたが、それもこれも願いの全ては、栗栖自身の願いではあったが、対象者は枡野であり、栗栖本人ではなかった。
     殺されたのはサンタのせいではないが、初めてこのサンタクロースに会い、心を失くし、2年目に記憶を奪われ、そして今年はもう一度心を差し出せと抜かすサンタクロースを、思い切り殴りたくなった。
    「信じてたのに。この日をずっと待っていたのに。サンタに会えるこの日を」怒りを通り越し、心を失くしたはずなのに空虚感に襲われる。
     サンタクロースの顔を見れない。見たら、殴れないが、殴りかかってしまいそうな心情だった。
    「君の気持ちは分かる。だから儂から1つだけ、君に頼みがある」
    「頼み?」サンタクロースの顔を見つめる。
    「君を生き返らせる。この願いを最後にしてくれないか?」
     サンタクロースから頼まれなくても、生き返らせることが最後の願いと決めていた栗栖にとって、拍子抜けの頼みだった。
     でもそんなことを頼むということは、無条件で生き返らせてくれるのか? 生じた疑問を投げかける。
    「いや、それは無理だ。無条件はさすがに。儂らも善意で行っているわけではないからのう」
    「じゃあ、どうやって僕を生き返らす?サンタが言う通り、もう命を失った僕から差し出せるものは何もない。命と同価値なものは命だけ。サンタがそう言ったんじゃないか」
    「ああそうじゃ。だから、これを最後の願いにしてくれと言っているではないか」
     話が見えない。交換できるすべは栗栖にはない。
    「じゃあ、誰の命と……」そう呟いた瞬間、思い当たる人が1人いた「彼女か。愛の命と交換ということか?」語尾が強くなる。
    「いや、そうじゃない。もう1人、交換するべき人がいるだろう?」
     誰だ。思いつかない。枡野の命ではなかった。もしそうだったら、この3年間が無駄になる。じゃあ、誰だ。
    「君が恨んでいる人がいるだろう」
     栗栖が恨んでいる人、黒井三太。でも奴はもう死んだ。
    「は?誰?黒井は死んだし」
    「もう1人いるだろう。そもそもなぜこうなった?なぜ、儂と君は出会った」
    「なぜって、彼女が事故に……ああ!!!」本来なら教会中に響き渡るくらい大きな声で発した。「中井俊樹か!」

    【投稿者: 3: 寄り道】

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