《涼介視点》
~1ヶ月前~
俺は姉貴達と出会うまでは、ずっと大屋軍の手下でいた。
俺はその時、あの大屋…佐江子様の一面を見てしまった。
それからが問題だった。
『西園寺、何してるの?出撃の時間よ?』
『……。』
『西園寺、聞いてるの?』
『…出撃はいいけどよ…。
俺さ、佐江子様のある一面見たんだよな。』
『…?』
ここで俺は、佐江子様のある一面ってのを暴露する。
『佐江子様はさ、手下にご褒美っつって、毎回手下とやってんだろ?』
『…は?』
『正直な事言ってもいいか?佐江子様は、あんな事して恥ずかしくないの?』
『…さっきから何言ってんの?ご褒美はご褒美でしょ?
任務で疲れた手下達を癒してあげるのが、主将である私の利権なの。
たかが恥ずかしいなんて、そんな事…。』
『主将なら何でもしていいのか?』
『…!』
『こんなろくでもねえ軍の中で手下とやってるなんてよ…。
まるで変態女教師とおねだり男子生徒じゃねえか。』
『西園寺…!』
『俺はあんな付き合いには御免だからよ…。
大屋軍、脱退するわ。』
『はあ!?』
『いくらご褒美っつっても、わざわざあんな事される義理はないんでね。』
『…ふん、あんただって求めてたじゃない。
いっつも私の近くにいる時、チラチラと私の胸を見てたじゃない。
本当はあんたにもやらせてあげたかったのに…、チャンスを無駄にしたわね。残念だわぁ…。』
佐江子様にそう言われた俺は、彼女を睨むように見た。
『…俺がそんな目でてめえを見てたと思うか?』
『…はあ?』
『正直ひいてたよ。てめえのそういう所。
いつもは力強く手下を慕ってたってのに、その裏の姿は紛れもねえ変態だって事によ。』
『……。』
ここで俺は、決意したんだ。
『だからよ、俺はこの軍辞めるから。そこんとこよろ。』
俺がそう言うと、佐江子様は怒りが混み上がったせいか、俺を睨んだ。
『…あんた、そんなに死にたいの?主将にそんな大口叩いて…。
覚悟はできてるんでしょうね!?』
『……。』
そうだよ、佐江子様は…。
言う事を聞けない手下には殺意持ってんだ。
『駆け出しの頃のあんたはとっても可愛かったのに…。
今は言う事の聞かない野良犬ね!』
そう。俺は野良犬だよ。
あんな一面見たら、流石に俺もひくよ。
そこで俺は、ある提案をしたんだ。
『…じゃあこうしようか。
今から俺は窓から外に出る。てめえは逃げてる俺を追いかける。』
『…なに?』
『…「人生最後の鬼ごっこ」って訳よ。
命張って逃げてる俺を捕まえてみろってんだ。』
バリンッ!!
『西園寺!』
俺は窓に向かって走り、飛び出した。
死ぬような高さではないが、外に出る事は変わりない。
『んじゃ、一旦さよならだな。』
『…!おい!!西園寺!!!』
『追いかけるの諦めて逃げんじゃねえぞ!俺とてめえの勝負だ!!
俺を殺すまで鬼ごっこは続くぜ!あばよ変態主将さんよ!!』
『西園寺!!!!』
『あのクソガキ…!
絶対にぶっ殺してやる…!!』
ここまでが、俺と佐江子様…大屋の、関係だったーーー。
《奈那美視点》
…これが、涼介の真実だ。
「そうだったんだ…。それで今、大屋から逃げてるって事か。」
「ああ。お蔭様で、奴らは活動しまくってる。人殺しのな…。」
「というか、涼介のそのやり方も結構反抗的な気がするけど…。」
「そこはそっとしておけよ。あれしか方法なかったんだし…。」
「それもそうか。」
まあ、私もあんな軍には無理矢理にでも抜け出したくなる。
「だからよ、姉貴。姉貴も協力してほしいんだ。」
「……。」
「俺が奴らに捕まらないよう、俺の護衛を頼みたい。
もちろん、嫌なら断ってもいいが…。」
今の涼介の話を聞いて、私は思う。
涼介は、見た感じ荒くれ者だけど、根は良い奴だ。
初めて私を「姉貴」と呼んだ時は、最初は混乱したけど、今はそうでもない。
寧ろそう呼ばれて悪い感じはしないし、正直嬉しかった。
それから私は、涼介を弟みたいな存在と思っていた。
両親を亡くし、私の本当の家族は若葉だけだけど、涼介も家族のようなものだ。
だから…。
「ここまで聞いて断るなんて言うと思う?」
「…え?」
「わざわざ大屋軍から抜け出してここに来たんでしょ?涼介の事情がわかったら、尚更だよ。
あんたが死なないように、私達もサポートするから。」
私は、涼介が仲間に入ってから考えた。
本当のではないけど、涼介は…。
私の「家族の一人」だ。
「……。
フッ、馬鹿野郎だな。」
「馬鹿野郎はどっち?」
「さあてねぇ。比べもんになんねえや。」
そう言われて、私と涼介はお互い笑った。
私みたいな女は…、馬鹿でもいいんだよ。
「なあ、姉貴。」
「ん?」
「若葉はどこ行った?」
「…え?」
そういえば、若葉の姿がどこにもない。
「…!ひょっとして、まだ外に…?」
嫌な感じしかしない。
私は急ぎ足で巣から出た。
《若葉視点》
「うぅ~…!ん~…。」
ちょっと空気を吸いに、私は外に出ていた。
空は曇り空。
このまま太陽や月が出ないなら、私は嫌だな。
お姉ちゃんと再会して、巣から出た時の快晴を早く見たい。
大きな溜め息が出る。
ザッ…ザッ…
「…ん?」
突然気配を感じた。
用心のために神楽刀を持ってきておいて良かった。
私はすぐに刀を構える。
…でも。
パシュッ
ザクッ!
「うっ…!?」
もう手遅れだった。
何かを打たれた。
「ぅぁっ…!」
誰かなのかを確かめる前に、私は神楽刀を弾かれた。
そして…、意識が遠のいていく…。
「捕 ま え た ♪」
聞き覚えのある声。
しかし、とうとう瞼が落ちていく…。
そして私は……。
何者か……、確かめられないまま………。
意識が…………、途切れてしまった……………。
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