私の仕事は、妖怪を退治する事。
そのために今日も、人を惑わし、傷つける妖怪を倒していた。
私の辞書には『血』と『強さ』しかなかった。
強いものが勝ち、弱いものが負ける。
ただそれだけだから。
しかし、十七回目の夏。
荒くれた私の人生に一筋の光が現れた。
それが『君』だった。
君は、私に縁のなかった綺麗なものを山ほど教えてくれた。
蝶が舞うように踊る華やかな巫女舞。
雨上がりに紫色に染る黄昏時の空。
ゆらりゆらりと天女の如く優雅に泳ぎ回る朱色の金魚。
静まり返った夜の空に架かり、伝説を紡ぐ天の川。
ひと夏の思い出を彼に全て教えて貰った。
そして、あなたと最後の夜。
人混みの中を掻き分けて、いつもの神社に向かった。
さっきの騒がしさとは裏腹に全く人が居なく、一刻一刻がしっとりと流れていく。
屋台の赤提灯が辺りを照らし、人々は夜空を見上げる。
鳥居の前の石段に座って彼と見た最初で最後の打上花火。
「もう夏が終わるね」
そう呟いた彼の声は、どこか懐かしく穏やかで優しくて。
その泣きたくなるほど美しい君の微笑みは、争いしか知らなかった私のぼろぼろな乙女心の傷に深く、深く染みた。
けれど私は知っている。
それが私の使命だと知っているからこそ私はただ、君との儚い夏の終わりまでひたすらに泣く事しかできなかった。
君との思い出の夏はもうすぐ終わる。
そして私はもう時期、愛おしい君をこの手で葬らなければならない。
コメント一覧
「やっぱりだめだ! 君を葬ることはできない・・・!」
そんなことを言って、お師匠とか、仲間から追われつつも、二人で生きていく展開も見たいなぁ・・・なんて。
いい雰囲気のお話でした。