夏ノ幻

  • 超短編 581文字
  • 恋愛

  • 著者: 猫屋敷 昏燗
  • 私の仕事は、妖怪を退治する事。
    そのために今日も、人を惑わし、傷つける妖怪を倒していた。

    私の辞書には『血』と『強さ』しかなかった。
    強いものが勝ち、弱いものが負ける。
    ただそれだけだから。

    しかし、十七回目の夏。
    荒くれた私の人生に一筋の光が現れた。
    それが『君』だった。

    君は、私に縁のなかった綺麗なものを山ほど教えてくれた。

    蝶が舞うように踊る華やかな巫女舞。
    雨上がりに紫色に染る黄昏時の空。
    ゆらりゆらりと天女の如く優雅に泳ぎ回る朱色の金魚。
    静まり返った夜の空に架かり、伝説を紡ぐ天の川。
    ひと夏の思い出を彼に全て教えて貰った。

    そして、あなたと最後の夜。
    人混みの中を掻き分けて、いつもの神社に向かった。

    さっきの騒がしさとは裏腹に全く人が居なく、一刻一刻がしっとりと流れていく。
    屋台の赤提灯が辺りを照らし、人々は夜空を見上げる。
    鳥居の前の石段に座って彼と見た最初で最後の打上花火。

    「もう夏が終わるね」
    そう呟いた彼の声は、どこか懐かしく穏やかで優しくて。
    その泣きたくなるほど美しい君の微笑みは、争いしか知らなかった私のぼろぼろな乙女心の傷に深く、深く染みた。

    けれど私は知っている。

    それが私の使命だと知っているからこそ私はただ、君との儚い夏の終わりまでひたすらに泣く事しかできなかった。

    君との思い出の夏はもうすぐ終わる。

    そして私はもう時期、愛おしい君をこの手で葬らなければならない。

    【投稿者: 猫屋敷 昏燗】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      なかまくら

      「やっぱりだめだ! 君を葬ることはできない・・・!」
      そんなことを言って、お師匠とか、仲間から追われつつも、二人で生きていく展開も見たいなぁ・・・なんて。

      いい雰囲気のお話でした。