ヤソの森下路帖もアカの古沢重雄も逝去しました。私は森下の三男で善三と申します。上の一人の姉と二人の兄は無神論者ですが、上の一人の姉と私は父の遺伝でヤソ系です。それで投稿するものはヤソっぽい話になりますが、どうぞ、よろしくお願いします。ちなみにそのクリスチャンの姉は京大の哲学科でキリスト教学を修め、米国のプリンストン大学神学部に留学した才媛です。姉は大学の友人だったユダヤ系アメリカ人の実業家と結婚してそのままアメリカで暮らしています。子供は女の子が二人です。日曜日には一家でユニテリアン教会に通っているそうです。ユニテリアンというのはキリスト教の中心的教義である「三位一体」を否定し、「異端」というレッテルを貼られているグループになります。ユニテリアン教会の信者にはインテリが多いそうです。
そのような姉は、いじめにより県立高校を中退し定時制高校を経て通信制大卒で社会に出ても職場でいじめにあってひきこもって職を転々としてきたダメ人間の自分とは雲泥の差というか、とても血のつながった姉弟とは思えません。容姿もその姉は抜群でして、よく、あべ静江さんの若い時に似ていると言われています。若い時ですよ!現在のあべさんに似てたら悲劇ですからね。あっ!これは失礼ですね。とにかくそんな姉にひきかえ、私は昔のプロレスラーでアブドーラ・ザ・ブッチャーという人がいましたが、これに似ているとずっと言われて育ちました。そう言うと、年代がわかるでしょう。ということで、今日は、私は唯一、生涯の友としているRさんについて書いてみたいと思います。
自分は中高年フリーターになるわけですが、現在の仕事はホームレス支援団体のスタッフになります。給料は月に15万円ぽっちで、そこから所得税はもちろん厚生年金保険料や介護保険料などを引かれるので、手取り収入は13万円ちょっとで生活は苦しいですが、まあ独身なのでなんとかやりくりしています。それより仕事でホームレスの人に接触する機会が増え、目から鱗が落ちるような経験をすることがあります。それば自分がホームレスに対して偏見というか、軽蔑する、見下げる気持ちがあったからです。Rという男性はそんな私の前に突如現れた人でした。
ある日、うちの団体が入った雑居ビルに彼はやって来ました。元は葬儀社で働いていた人ですが、へんな時間に呼び出されるので、奥さんにもストレスが溜まり、おまけにRさんはパチンコ好きで、そのわりには負けることが多く収入が安定しないので、その他にもDVとか浮気とかいろいろあって奥さんが二人の子供を連れて実家に帰り、そのまま帰って来なくなって離婚ということになって以来、Rさんは鬱状態になって葬儀社を退社せざるを得なくなったそうです。それで気づいたら家賃も滞納して追い出され、路上生活者の身になりさがっていたというわけです。しかも窃盗を繰り返して刑務所にも入ったというのだから、実に惨憺たるケースですよね。
それで、そのRさんに対して私は当面の住居と生活費を提供することになりました。住居はうちの団体と提携しているカトリック教会の付属施設です。六畳一間の古い木造のアパートの一室ですが、近くに銭湯もコインランドリーもあるので最低限の生活はできます。もちろん、Rさんには刑務所にいた間の労働報酬など貯金があるのでそれを資金にしてもらって、あとは生活保護を申請してもらいました。うちの顧問弁護士が同行すれば、申請はほぼ100パー受理されます。
ある時、私はRさんの生活状態を見に行ったのですが、その際、Rさんが常時、持っている物を見ました。それは携帯電話と「福音書」と題された本でした。Rさんは刑務所で教誨師に出会い、「福音書」と題された本(正確には『岩隈 直 訳 福音書』〔山本書店〕)を毎日、数節読んでから、「主の祈り」を唱えることを教わり、これが日課になっていました。私はそのことを知り、Rに対して自分も同様であると言いました。実際、私も福音書の一節を読んで主の祈りを唱える生活をしてきたのです。そしてなんとなくRと気持ちが通う関係になりました。
実は、Rさんは退職後に窃盗以外でも警察の御厄介になったことがあり、その原因は今、問題となっているあおり運転だったそうです。彼は短気で、追い抜かれるとカッときて、その追い抜いたクルマの前に出て進路を塞ぎ、文句を言うのだそうです。以下は会った当初の自分とRとの会話です。
私「あんたがやってることはチンピラと同じじゃないか!いきがって、ばっかみたい」
R「おまえになにがわかる! 抜かれた時の悔しさがわかるか? 自分がばかにされた感じになるんだよ」
私「あんた、毎日のように聖書を読んでるんだろ?なぜ、相手に暴言を吐いたり、進路妨害するようなことができるのかね?」
R「聖書読みだろうが何だろうが、悔しい時は悔しい。クリスチャンは皆、品行方正だなんてことは幻想にすぎない」
私「では、これからもあおり運転とか恫喝的な態度はやめないのかね?」
R「はい。すくなくともあんたが期待するようなかたちには変えないつもりです。ホームレス支援のNPO法人なんて偽善もいいとこでしょう。結局、助成金を食い物にしているワルなんでしょう?」
私「いや、それはホームレス支援団体に限らず、一定数程度の団体について言えることでしょう」
R「分野横断でね……?」
私「さいです、さいです……っていうか、今、そんな話をしたいんじゃなくて、あんたさんのこれからについて、わしがひとこと言わせてもらいたいってことで……」
R「どうぞ」
私「規則正しい生活で近所に迷惑をかけないこと、以上」
R「そんなこと、務所暮らし経験者に向かって言うことか?」
私「ま、そりゃそうですな。」
(続く)
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