外は生憎の雨。
冷たい空気と雫が、身体中に染み渡る。
「…寒い。」
気温も低いため、本当に寒い。
温かい缶コーヒーを飲んでも、すぐに温まる訳ではない。
もう8月だっていうのに、冷夏かと思うくらいだ。
そんな中で私は、街をぶらついていた。
雨の中でチラシを配る人や、藁箒で掃除をしている人がちらほら。
そこらの一般人みたいに、私は歩くだけの事。
「…お姉ちゃん?」
誰かが、私を呼んだ。
声のした方に振り向くとーーー。
「奈那美お姉ちゃん…だよね…?若葉だよ。松浦若葉!」
「…若葉…?」
そこにいたのは、松浦若葉。
私の、実の妹だ。
生き別れて以来、ずっと連絡も取れなかった。
若葉は私を目にした瞬間、目から雨のように涙を流していた。
「もう!ずっと会いたかったんだよ…!」
若葉は思いきり私の胸へと飛び付いた。
よほど寂しかったのだろう。
「…そっか。まだ刀続けてるんだね。」
「うん。」
「私もそうだけどさ、お姉ちゃんみたいにはなれなくて…。」
「ん?どういう事?」
私は、若葉の発言に疑問を抱いた。
私みたいになれないとは…。
「お姉ちゃんは踊ったりしてるみたいに、二刀流で戦ってるでしょ?そんなの、私は真似できないなぁって思って。」
まあ確かに私は斬裂刀を使う時は、回ったりしてまとめて斬ってるけど…。
流石に技術を多く持っていないとできない。
ちなみに、若葉の刀は1本だけ。
端から見たら二刀流で踊り狂うなんて、普通の人間はできっこない。
「お姉ちゃんはすごいよ。私のできないような事ができるもん。」
「そうかな?」
ちょっぴり羨ましがる若葉が可愛らしい。
若葉もきっと私のようになりたいと、ずっと背中を追い続けていたんだろう。
もしもそうなら話はわかる。
若葉ほ昔からずっと、私の容姿を見てきた。
確か、「ずっとお姉ちゃんの傍にいたい!」なんて言ってたっけ。
あの頃に言われた言葉は忘れもしない。
でもしばらくして、生き別れてしまったのだから、寂しい思いをさせてしまった。
私って、悪い姉だなぁ…。
姉になるって、何だろう?
自分に妹ができて、姉ができる事って、どういう事だろう?
今思えば、それがはっきりとわかっていない。
姉って、何だろう?
でも、若葉は…。
私の大切な、可愛い妹。
ずっと大切にしてきた。
でも、生き別れたあの頃、若葉は私を嫌っているんじゃないかと、不安に思っていた。
怖い。
痛い。
ずっとそんな日々を過ごしていたーーー。
「…姉……ん……。……ちゃん…。」
「お姉ちゃん!」
「…!」
若葉の大声で、私の思考は元に戻った。
「どうしたの?ボーッとして…。具合でも悪いの?」
「あ、ううん、大丈夫。ちょっと昔の事思い出してね…。」
「昔の事?」
「ほら、昔さ、私と若葉、一度生き別れちゃったでしょ?その間、実は私も寂しかったんだ。
あんなに可愛がっていた妹と離れ離れになって…。今思えば、私は悪いお姉ちゃんだなぁって、そう思っただけ。」
「……。」
ああ、黙り込んじゃった。
…と思ったら、若葉の口が開くーーー。
「そんな事ないよ。」
「ん?」
「私は、お姉ちゃんが大好きだよ。昔からずっと。こんなに寂しかったんだから、嫌うなんてありえないよ。
もし嫌ってたら、寂しがってない。お姉ちゃんもそうだったと思うよ。」
「若葉…。」
今まで可愛がってた妹にそう言われると、何だか安心する。
嫌っていなくて良かったと、心から思えた。
「そろそろ行こうか。濡れるの嫌だし。」
「え?うん。」
私はそう言って立ち上がる。
今から向かうのは、私の家。
まあ家って言うより、巣に近いかな。
何せ狭いし、長い間借りてるみたいな感じだし。
「ふえぇ~、ここがお姉ちゃんの…。」
「まあ、巣みたいなものだけどね。」
マンホールを開けた下水道に、テントが一つ建てられている。
あれが私の巣。
これなら家賃もいらないし、慣れれば寧ろ住み心地が良い。
え?体洗うのはどうしてるかって?
……。
それはご想像にお任せするかな。
「土足でいいよ。何も敷いてないし。」
「あ、うん。」
そう言うと、若葉を中に入らせた。
ただの貧乏生活に見えるかもしれないけど、全然問題ない。
「ずっとここに住んでるの?」
「うん。ここなら好き勝手できるかと思って。」
「て、適当だね…。」
まあ確かに適当っちゃ適当だけど。
「でもなんか、住み心地良さそう。よく長い間住めたね。お姉ちゃん。」
「慣れたら寧ろ良い場所だよ。」
「お、雨が止んでる。」
外に出ると、雨は止んでいた。
日差しが街中を照り付けている。
「あっついね~。」
「もう8月だからね。さっきは結構冷え込んでたのに。」
現在の日付は8月5日。
気温は30℃近くみたいだ。
「…よお。」
「ん?」
突然、誰かに声を掛けられた。
後ろを振り返ると、一人のタンクトップの青年がいた。
「お前、松浦奈那美だろ?」
「そうだけど。」
「丁度良かったぜ。あんた、俺と決闘しろ。」
「…は?」
私は彼の発言に、首を傾げた。
決闘…って事は…、え?ここで戦うって事?
「噂で聞いたぜ。あんた、えらい強いってな。だから腕試しには丁度良いと思ってよ。
だからよ、今すぐ俺と決闘しろ。」
あー、なるほど。もう私の名前は街中で知れ渡っているんだね。
「急だね…。私は別に構わないけど。」
「お姉ちゃん、いいの?」
「大丈夫。すぐ終わらせるから。」
そう言うと、私は鞘付きの鬼薙刀を構える。
「…言っとくけど、大怪我になる覚悟で挑んでね?」
「ああ。わかってるよ…。
さあ…、存分に楽しもうぜ!!」
私の鬼薙刀と彼の拳がぶつかり合うーーー。
コメント一覧
妹との生き別れの理由が気になりますね。
妹ちゃんも出てきて、楽しくなりそうです。