【4月1日 20:00】
「僕と結婚して下さい」と、5年間付き合ってきた彼女に告白した。
彼女は少し驚いた表情をし、目を輝かせたが、今日が4月1日つまりエイプリルフールだということに気付くと「嘘じゃないよね?」と訝しんだ。
「ごめん。ちょっと言ってみたくて」僕は苦笑いをして、彼女にさっきの告白が嘘であることを告白した。
「最低。信じらんない。そんな大事な言葉を嘘の道具に使うなんて」彼女が怒るのも無理もない。「嘘吐く男とは一緒にいたくありません。さようなら」
彼女がその場から立ち去った。
その後、何度も電話をかけたが、彼女は一向に出なかった。
【4月2日 18:00】
やっと彼女が電話に出た。
透かさず昨日のことを謝るが、彼女の口調は強いままだった。
仕方がなく「20時に昨日の場所で待っているから、絶対に来て」と言うと「嘘吐く男の言うことは聞きません」と言われ、切られた。
【20:00】
少し前から昨日の別れた場所で待っているが、20時になっても彼女の姿が現れない。
【20:30】
厚着はして来たが、少し肌寒くなってきた。まだ彼女の姿は見えない。
【21:00】
彼女は来てくれると信じて、ひたすら待つ。
【21:10】
近くのベンチに座り、30分になったら帰ろうと決意したそのとき、彼女が現れた。
「まだ待ってたんだ」ぶっきらぼうに言って来る。
「来てくれてありがとう。そして、昨日は本当にごめん。でも理由があってのことだったんだ」
「理由って何よ」
僕は彼女の目をしっかりと見つめ「君にはもう嘘は吐かないし。哀しい思いも絶対にさせない。昨日の告白を嘘として片付けたけど、ここで改めて言わせてください。“僕と結婚して下さい”」
後ろのポケットから、この日のために用意して来たジュエリーケースを取り出し、指輪を彼女に見せた。
「これも嘘なんじゃないの」訝しがる。
「もう君に嘘は吐かない。だから、受け取って下さい」
「最後に訊いても良い?」
「うん」
「昨日のあの嘘で、私たちの5年間が水の泡になるとは思わなかった訳?」
「思わなかった、と言えば、嘘になる。けど、昨日の告白を本当にしてしまったら心に残らないと思った」
彼女がなぜか笑う。
「確かに心にはずっと残るね。良い意味でも悪い意味でも。だけど、心に残る悪いことは、後々笑い話に繋がると私は思う」
「そう言ってもらえると、助かるよ」
「だから、これからも心に残ることいっぱいしようね」そう言うと、彼女は指輪を受け取った。
【22:00】
夜道を二人で、手を繋いで歩いていると、ふと彼女がこんなことを言ってきた。
「4月1日ってエイプリルフールじゃん。でね、4月2日って、トゥルーエイプリル、といって本当のことしか言ってはいけない日なんだって」
「じゃあ、良い日に僕は告白したんだな」
「それでね、私も伝えたいことがあるの」
「何?」
冷たい風が、二人の頬を撫でる。
「私、妊娠したみたい」
少し沈黙が流れたあと「嘘?」と僕は訊いた。
「うん。嘘」彼女は少し笑うと「これでお互い様」と言い足した。
僕も笑ったが「もしできたら、3人は子ども欲しいな」と付け足した。
「そうだね」
僕は彼女の嵌めた指輪を感じながら、右手を握り直した。
コメント一覧
どんどんと時間だけが過ぎ去っていく感じからの、
最後の緩急。うなりました。よい作品でした。