捻り

  • 超短編 655文字
  • 同タイトル

  • 著者: ミチャ寺
  • 直木さんの言葉には捻りがない。

    * * *

    「お腹減った…」
    「たしかに、そろそろ昼時ですね」
    直木先輩はとても素直な人だ。そして選ぶ言葉がどれも簡単である。
    「ご飯食べに行こう。キミは何か食べたいものはある?私は何かが食べたい」
    「えぇっと、そうですね…」
    営業の隙間、丁度昼時だった。
    本音を言えば安めにガッツリ食べられる丼モノあたりが良いが、デートでは無いとはいえ女性を誘うような場所じゃないような気がする。
    とりあえず店を探しながらそう思い悩んでいると、直木さんの足が某牛丼屋の前で止まった。
    「…牛丼、食べたいんですか?」
    「食べたい。行こう」
    即決。

    「牛丼の並1つ、お願いします」
    「直木先輩は卵とかつけないんですか?」
    「牛丼屋に来たんですから、牛丼を食べるのは当然です」
    頼むメニューにも捻りは無い。直木さんはラーメン屋に行けば豚骨ラーメンのみ、ハンバーガーショップに行けばハンバーガーのみ、焼肉屋に行けばひたすら肉のみを食べ続けるストレート過ぎる人だった。食べ放題とかどうするんだ、この人。
    「いただきます」
    そしてこの直木さんという人は、味に対する感想も捻らない。
    「美味しい!」
    この一言である。まあレポーターでは無いのだから捻る必要は無いのだが、このお肉がだとかタレがだとか、そういう言葉に対する彩りを気にしない人だ。
    だがそれ故か、この人の美味しいは無差別に料理を魅力的にさせる。
    捻りのない純粋なひと言は、すなわちまっすぐ届いてくる言葉だ。
    だからだろうか…
    「美味しかったね。ありがとう」
    直木さんから受け取る感謝は、格別に幸福だ。

    【投稿者: ミチャ寺】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      なかまくら

      なんというか、そういう分析をしてしまうこの主人公は、ひねくれているか、
      あるいは・・・・・・直木さんに好意を抱いているんですねっ/// わかります。