一人暮らしの、マンションの周りをふらっと散歩してみると、引っ越し業者のトラックがやたら目についた。
そうか、もう春か。
当たり前だけれど、季節は巡る。
私にも、引っ越しをした春があった。
もうどのくらい前だったろう…そんな事を考えていたら、上着のポケットに入れていたスマートフォンが震えた。
「お、早かったな!」
「ちょうど私も近くにいたから」
私たちは、中学の同窓会で30年ぶりに再会した。
学生時代、特別に仲が良かった訳ではなかった。
ただ、この年齢で再会し、お互い都合の悪い事は多少割愛しながらも話をしてみると、中学卒業後、生きてきた境遇がとても似ていたのだ。
二人とも、一度の結婚を経験し、今は独りになっていた。
私たちが通っていた学校近くの公園に出てこないか、と連絡がきたので寄ってみると、缶コーヒーを片手にベンチに座る彼がいた。
彼、というかおっさんだな。
人の事は言えないけど…
「暖かくなってきたね」
「そうだねぇ」
そう言うと、彼は「あれ?」と私の髪に手をのばした。
「ん?何」
「いや、桜の花びらでも付いてるのかなと思ったんだけど…」
「え?いや、まだ桜咲いてないし」
「うん、違った。白髪だった」
「へ?」
私たちの距離は、とても近くなっていた。
慌てて目をそらそうとしたのだけれど、気が付くと一瞬、唇が触れた。
「桜咲いたらまた来ようか」
「あ、うん。って言うか白髪って?」
「いや、それは気にしなくていいよ」彼は笑っていた。
コメント一覧