蛙の子は蛙 ~花嫁のうた~

  • 超短編 1,916文字
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  • 著者: 3: 寄り道
  • 「それでは次に、新婦からご来場された皆様に、感謝の意を込めて手紙を読んでもらいます」
     新婦は席を立ち、その場で手紙を読み始めた
    「えー、今日は私たちの結婚式に来ていただき、ありがとうございます。そしてこの手紙を許してくれた、優さんにも感謝いたします。こんなおめでたい日に話すことではないけど、しかしみんなが集まったこんな機会だからこそ打ち明けます」新婦は深呼吸をし「私には、恨んでも恨んでも許せない人が2人います」
     会場内は何が起こっているのかまだ把握できていないでいる。
     新婦は、そんな騒然とする会場をよそに、話し続ける。
    「恨んでも恨み切れない人。まずは高校の高橋先生。あなたです」
     来場客の目が、高橋先生に集まった。
    「あなたには高校時代、数々のセクハラや盗撮、それに痴漢をされてきました。教室では卑猥な言葉を言ってきたり、廊下ですれ違うたびにお尻を触られました。駅でも、階段下からスカートの中を盗撮したり、混雑している電車では胸を揉んだり、パンツの中に手を入れ弄ったりと、私が泣き寝入りするのをいいことに、色々とやられました」
     高橋先生を見ていた来場客の目が一気に、蔑んだ目に変わった。
     いたたまれなくなった高橋先生が「でたらめなことを言うな。訳の分からんことをベラベラと。証拠でもあるのか?あぁん?」と怒りで席を立った。
     するとテーブルの上に載っていたワイングラスが床に落ち、絨毯が敷かれていたものの落下の衝撃で割れた。
    「証拠はありません。ですが、まだあなたのスマホに、私の盗撮した写真や動画、残っているんじゃないですか?」
     結婚式とは甚だ思えない状況に面白くなった2人の男性のうち、1人が高橋先生を羽交い絞めにし、1人はポケットの中からスマホを取り出そうとしていると、どこからか「私もされました」という声が聞こえた。
     その声の正体は、高校時代同じクラスだった、ひよりだった。
    「ひより、有難う。高橋先生、私も含め2人の証言者がこの会場にいます」
    「お前ら2人がグルになって、私を陥れようとしているんだ」男性2人に抑えられながらも、抵抗する。
    「うるさい。黙れ」
     男性2人は、高橋先生を腹這いにさせ、上着やズボンのポケットに手を入れ、スマホを取り出した。
     電源をつけるもロックがかかっていたため、力尽くで高橋先生の右手の親指を引っ張り出し、ホームボタンに当てた。
    「お!開いたぞ」
     男性はスマホを操作すると、小声ではあったものの「すげぇな」と声が漏れた。「これ全部、お前が撮影したのか?」
     もう観念した高橋先生は起き上がり、着ていたスーツのしわを伸ばし「そうだよ」と投げ捨てるように言った。
     続々と周りの来場客も、スマホの画面を見に集まった。
     フォルダの中には盗撮した、200件以上の生JKのエロ画像や動画の数々。
    「サイテー」「信じらんない」「死ねばいいのに」
     そんな誹謗中傷の言葉が飛び交う中、新婦はまた話し始めた。
    「私の恨んでも恨み切れないもう1人は、母です」
     さっきまで高橋先生に向けられた目が、一気に母に向けられた。
    「私は、母とその当時付き合っていた元カレの間に間違ってできちゃった娘です。だからなのか、小さい頃から暴力を振るわれてきました。私がいくら泣き叫んで暴力は止まず、暴力が止むと何もない部屋に私一人を置いて、パチンコに出かける日々。隣の部屋に私がいるのに、母は毎晩毎晩違う男とSEXの日々。どうせならその愛人と生ゴミのように私を殺して捨ててくれ!と何度も何度も思いました。体裁だけは立派な母でしたから、私を学校に行かせてくれましたが、体中アザだらけな私は、夏も長袖。体育の水泳の授業は、いつも見学。学校では友達を作ろうと思っていた私ですが、友達もできず、家や学校で疎外感を抱く日々。だから、高校生活が始まると同時に家を飛び出し、今日に至ります。この2人が私にとっての恨んでも恨んでも許せない2人です。こんな手紙を読むことを許してくれた、優さんには本当に感謝いたします」
     新婦は途中から涙を流し、言葉に詰まりながらも手紙を読み終えた。
     すると、会場の扉が開き、警察が入ってきた。
     誰かが呼んだのだろう。
     高橋先生が事情聴取を受けている中、新婦はまた話始める。
    「私は、あなたみたいな母には絶対になりません。優さんと幸せな家庭を築きます」
     高橋先生はその場で逮捕され、母は呆然と警察の事情聴取を受けたのち任意同行を求められ、会場は警察が来たことに騒然とする中、どこからか拍手が聞こえた。
     その主は、ひよりだった。
     その1つの拍手が伝染し、来場客が新婦の手紙に拍手を送った。
     警察が来たことにより、結婚式は続けられるはずもなく、新婦も事情聴取を受けるため、披露宴は幕を閉じた。

    【投稿者: 3: 寄り道】

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