捻(ね)じれた長い柱が無数に立っている部屋だった。
「あ、これね、気にしないで。捻じれたものを見ていると気分が落ち着く性分なので」
「じゃあ、いま、ぼくの治療をしている先生も、落ち着いているということですか?」 僕はそんなことを尋ねていた。
「・・・・・・」 先生はその質問にはしばらく答えずに、黙々と手を動かした。
「足首の捻挫なんですよ」 ぼくは怪訝に思って、そう言うに至る。なぜなら、先生は腰回りをしきりにさすっていたからだ。
「・・・・・・」 それから、股関節、そして膝へと手を伸ばしていく。
「全体的な問題なんだ。ほら、絡まったコードを見たことがあるだろう? その部分だけを直してもその捻じれは、別のところに移動するだけなんだ」 先生がふいに答える。さっきの質問に対してだろうか。
「全体的な問題・・・」 ぼくは、ぼくが捻挫に至った全体を思い浮かべずにはいられなかった。繰り返されるからかい。友人との会話は絡まり、言葉は遠くから聞こえていた。自分の問題なのだ、おそらくは。少し前まではなんの捻りもなかったのだ。ひねったときにできた溝に、流れ込み、滞った血液のように、何かが流れずにつっかえているのだ。
「ギブスをつけるのも、アリかもしれないよ?」 先生は、そんなことを言う。
「ギブス?」
「大丈夫だと思って人はそれを動かす。動かさずに休めることが必要なんだ」
「でも、固めた後って、リハビリが大変だって聞きます」
「まさしく、その通りだ。けれども、人はギブスを使う。治らないからだ。そうしなければ、ずっと痛いままだからだ」
ぼくは気がついたら泣いていた。痛いのはもう嫌だ、と心はそう叫んでいるのだろうか。
「今日の治療はここまでにしよう」 先生はそう言って、僕から離れた。遠くのほうで、手を洗う音がしていた。
「あ、そうそう」 先生は帰りがけにこんなことを言って聞かせてくれた。
「捻りのあるものは強いんだ。ぼくらの設計図となるDNAは二重らせん構造・・・捻りが構造を強固にしている。人間だってそうさ。捻った経験のあるほうが強いはずさ」
「はい」 そう返事をしたけれども、僕にはさっぱりわからなかった。けれど、
「またきます」 ただ、そう答えた。
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