バレンタイン ~PART2~

  • 超短編 1,170文字
  • 恋愛

  • 著者: 3: 寄り道
  •  バレンタインを間近に迫ったある日。
     いつものように、先輩と飲んでいた。
    「もう少しでバレンタインかあ」
     どこもかしこもバレンタイン一色で、ここの居酒屋でもバレンタインに合わせたメニューが期間限定であり、それを見ながら呟いた。
    「もらえる相手でもいるの?」
    「いないですよ。僕みたいな人に、くれる女性なんて」
    「なら。私があげようか?」
    「え!?」先輩の目を見る。
    「いや、先輩としてだよ。いつも飲みに付き合ってもらってるし、そのお礼として」
    「それでも嬉しいですよ。女性からもらえるなんて」
    「分かった」

     そして当日。また先輩に飲みに誘われ、そこで一つの小さいチョコをもらう。
    「チロルチョコって」
    「嫌ならいいよ。返して」
    「いや、もらいますよ。有難く」
    「来月、楽しみにしているから」

     そして3月14日。ホワイトデー。
     初めて、僕から先輩を誘う。
     僕が渡したのは、紅茶の詰め合わせ。
     いつも会社で先輩が紅茶を飲んでいたから、好きだと思って、購入した。
    「何これ?」そういって、包装を開ける。
    「紅茶です」
    「紅茶かあ。まあ、良しとするか。好きだし」
    「なら、良かったです」

     そして1年後のバレンタイン。
     先輩からは板チョコ。
     僕からは、小さい熊の縫いぐるみ。

     そして1年後。
     先輩からは、12種類の違ったチョコの詰め合わせ。
     僕からは、ネックレス。

     ネックレスを購入する際、店員から「彼女さんにですか?」と訊かれ、慌てて否定した。

     ネックレスを先輩に渡すと、すぐに付けてくれた。
     いつもはテキパキと仕事をこなし、部下の悩みも親身になって聞きアドバイスをする、頼もしい先輩と思っていたけど、ネックレスを付けた先輩を初めて “可愛い” と思い、少し照れた。
     そんな僕を察してか「何、顔を赤くしてるの」と弄ってくる。
    「お酒が回っただけです」と否定する。

     そして1年後。
     先輩は手作りのチョコをくれた。
    「趣味の一環で作ったから」と前置きし、僕に寄越した。
     有難く戴く。美味しいチョコだった。
     僕が渡したネックレスを今でも付けてくれている。

     そして僕はホワイトデーに、指輪を渡した。
     去年がネックレスだったため、何を渡したらいいのか迷った挙句の結果だった。
     先輩は驚いたものの「ありがとう」と言い、右手の薬指にはめた。

     そして1年後。
     先輩からのバレンタインは何もなかったが、帰り道、初めて手を握った。
     僕はホワイトデーに「付き合って下さい」と告白した。

     そして1年後のバレンタイン。
     その日は初めて、先輩の家にお邪魔し、手料理を振る舞われた。
     僕はホワイトデーに、何も渡さなかったが、意を決して『結婚』を申し込んだ。

     先輩は何も言わなかったが、右手の薬指にはめていた指輪を、左手の薬指にはめた。

     小さなチョコから始まった先輩との物語。
     終わりを告げたのは、小さな指輪だった。
     しかし、その終わりを告げた小さな指輪が、また、2人の物語を紡いでいった。

    【投稿者: 3: 寄り道】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      けにお21

      確かに、バレンタインデーとホワイトデーだけの構成。

      しかし、二人が少しづつ近づいていくところが正に恋愛ってものだろうし、
      キッカケの始まりから、結婚までの終わり(結婚が恋愛の終わりか?は置いといて)まで描かれている。

      コンパクトにまとまっていて、これぞ短編小説だと思いました。


    2. 2.

      なかまくら

      似たもの同士だったんでしょうねぇ。
      ニヤニヤしました。


    3. 3.

      さんきゆう

      バレンタインデーしか会えない訳があるとリアリティがあったのでしょうか。でも、楽しめました。面白かったし、ほのぼのとしました。