唐突に聞く。日本を動かしているのは? 自見ん党? 吾蔽首相? 違う! ほとんど知る者はおらず、俺もできることなら信じたくないんだが、日本を動かしているのは俺が世話係をしている若干15歳のクソガキだ。そして、俺はこれか会わなきゃならないときたもんだ。
「若、お呼びでしょうか?」
「ようこそ、我がネバーランドへ」
年端も行かねぇガキが馬鹿でかいデスクの向こうで踏ん反りかえっている。
「で、御用というのは?」
「ああ、新しい元号のアイディアが浮かんでねぇ。それが次々浮かんでもう止まらないんだ。君にも僕のアイディアを聞いてもらおうと思ってね」
「ああ、はい、分かりました。お聞かせください」
「まずは、これだ!」
若は、わざわざ色紙に筆で書いた新元号の案を見せてきた。無駄に達筆なのがムカつく。
「懲役」
「3年」
「どうだね?」
「やめてください。ドヤ顔もやめてください。こんな元号、普通ではないでしょう?」
「そうか? ちょうどテレビでひっどい殺人事件の判決が懲役刑で不満に思って、これにしようと思ったんだが」
「新元号を考えるときにテレビ見るのもやめて下さい」
「じゃあ、まぁ、次だ」
若は次の色紙を出した。
「余命」
「3年」
「どうだね?」
「いいわけないでしょう? シャレになりませんよ!」
「うまくいかないもんだな?」
「もうちょっと違う感じのないんですか?」
「違う感じのか……」
若は次の色紙を出した。
「桃栗」
「3年」
「どうだね?」
「あんた遊んでるでしょ?」
こいつのためにバナナの皮で罠を仕掛けたい。こいつが無様に滑って転んで頭を打って死ぬところが見たい。
「次の元号の時代がもうすぐ始まるんですよ! ふざけてるんなら我々で決めますよ!」
「分かった。ふざけるのはもうやめた。ちゃんとしたのを考えるよ」
「私が新元号を発表するんですか?」
「ああ、若の御指名とあっては致し方あるまい」
「分かっていると思うが、『平成』を発表した汚物君は首相になっている。この重大さがわかるね?」
「も、もちろんです」
俺は上ずった声で答えて、生唾を飲み込んだ。
記者たちの視線が、フラッシュが眩しい。
俺は新元号の書かれた額縁を取り出し、そこに書かれた字を見て我が目を疑った。
だ、誰か、今すぐ、俺にタイムマシンをくれ!
「し、新元号は運を呼ぶように……、って、こんなもん読めるかーーーーーーーーーーっ!」
俺は額縁を小脇に抱えると脱兎のごとく逃げ出した。
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