タイムマシンの罠

  • 超短編 763文字
  • 同タイトル

  • 著者: 3: 茶屋
  • 彼は部屋を後にした。

    「会えてよかった」
    「こちらこそありがとう」

    タイムマシンの研究は失敗だったと言わざるを得ないだろう。

    彼を見ていればそれは一目瞭然だった。

    未来から来たと名乗るその男は、髪は白髪で皺は深い。

    背筋は伸びているが、右足が不自由なようで歩く際には杖を必要としていた。

    未来から来たという彼が、一体何を犠牲にしたのか知る由もない。

    全て、という言葉を使えばよいのだろうか?

    それがわかれば話は簡単だっただろうに、彼は取捨選択をしたのだと思う。

    選び、捨てる。それがどれほどの痛みを伴ったかは今の僕にはわからない。

    いずれわかることかもしれないが、

    今僕は、恐らくは目の前の未来の僕自身が知りうる最悪の時の僕なのだろうと思う。

    そして彼は、タイムマシンを手にし、その最悪を回避できる手段を持ってなお、僕の前に立っている。

    そりゃ怒るさ、いますぐ数日前に戻って僕を止めろと言いたいさ。

    でもそれはできない。なぜかって? わかるさ、だって目の前にいるのは僕自身なのだから。

    今全てを教えろって、行ってみたいけどね

    時間のことはわからない。過去を変えれば世界が変わるとか崩壊するかとはわからない。

    でもつまりは必要なことだから彼は僕の目の前にいるわけだ。

    こうして死にかけた体で未来からきたという僕をみている。

    僕は将来どんな気持ちで僕を見ているのか。それが知りたくなった。

    そのために生きるのは正しいのだろうか?

    彼の顔の皺は深い、そこには彼の人生が染み込んでいる。

    彼は驚くべきことに杖を突いて歩いている。僕は歩けるようになるらしい。

    僕は背筋を張って生きることができるのか。

    これから僕がどんな苦難に出会うのかはわからない。でも一つだけはっきりしたことがある。

    タイムマシンの研究は成功だったのだろう。

    「こちらこそ会えて良かった」
    「ありがとう」

    彼は部屋を後にした。

    【投稿者: 3: 茶屋】

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