仕事から家に帰るとバナナの皮が死んでいた。
* * *
思わず玄関で立ちすくんだ。どうして、何故バナナの皮が赤い血のようなものを流して倒れているんだ?ゴミ箱を見ればトマトジュースなのは一目瞭然だったが、それにしても理解ができない。
そして呆然とする俺を見て、妻はニヤニヤと笑っている。
「ふふふ、どうしたの名探偵。お待ちかねの事件よ?」
妻の仕業みたいだ。いきなり犯人が分かってしまった。しかし…
「訳がわらかないから迷宮入りだな」
「そんなバナナ!ちゃんと推理してよ!」
仕事の鞄を渡して一旦部屋に着替えに入る。
「先に風呂に入っていい?」
「熱々にしておいたわよ」
「熱湯なのか…水で少しうめてから入ることにするよ」
折角なので適温になるまで推理してみることにした。
妻は何がしたかったのか。
そもそも何故バナナなんだ。昨日買ったが俺は食べてない。妻も特別好物だったワケでは無かった以上、怨恨(食べ物の恨み)の線は薄い。
何か悪いことをしただろうか。悪だくみをするのは大抵妻なので、少なくとも身に覚えがない。
そもそもどうしてバナナの皮なんだ?
バナナを買ったのが昨日のことである以上、バナナにメッセージが込められている場合は今日の出来事に限定される。俺が関わるとしたらさらに今朝に絞られて………
俺は風呂上がりに、妻に謝ることにした。
「……朝ごはん食べてなかった。
あの朝食用のバナナを"殺した"のは、俺だったってことか」
「早起きして作ったんだけどなぁ…超ショックだったんですけど。朝食だけに…なんちゃって」
妻はチラチラと俺の方を見つつ、そのひと言を待っていた。
「…ゴメンなさい」
「よろしい。さて、晩ご飯にしようね」
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