凄惨な現場であった。
「無理心中ですな」「いや、殺人事件だろうさ」
二人の刑事は、ともに恰幅が良く、ともにパイプをくわえて、ひげを交互に撫でながら、事件現場を眺めていた。
「犯人はどっちだろうな」「いやさ、相討ちだろうね」
死体は二つ。凶器は花瓶。それぞれの凶器と頭部の外傷ががっちり合致。
「間違いないな」「間違いないね」
二人が頷く。
チェック柄のチョッキの青年は、指をさしている。丁度ダイニングのほうである。つまり、そのダイニングメッセージが残されていた。机の上には食べかけの夕食。こぼれたワインと、白身魚のギョギョ煮。そして、房についたバナナ。そのバナナの周りは水で妙に濡れていた。
地面にも食べ物がこぼれており、二人の刑事は、そっと目を逸らした。
「さぞかし美味しかったろうな」「ところが、今は匂いすら宜しくない」
「ところで二人の関係はどうだろうな」「見たところ、老人と青年というのは関わりの少ないものだ」
「存外、どうだろうか」「案外、その通りさ」
「よし、間違いないな」「間違いないね」
二人が頷いて、事件の調書に一筆ずつ、署名を始めたときに、
「おままちを!」
颯爽と現れるチェックコートの男が現れる。
「またチェックですな」「今日はチェック記念日ですかね」
「刑事さん、刑事さん、こんにちは。いつもお勤めご苦労様です」
チェックコートの男は、優雅に挨拶をする。
「いつも、どこからともなく現れますな」「探偵どのは、千里眼ですね」
「いえ、彼に事件が起きたので」
探偵は、さっそく現場を確認する。
「なるほど! 謎は解けました!」
「そうでしょうな」「そうでしょうね」
二人の刑事は、さも当然のように、ひげを交互に撫でた。
「チェックの彼・・・私の助手のアンサムくんは、バナナの皮に滑って後頭部を後ろの花瓶に強打! 後頭部陥没が死因ですね」
探偵は、ピクリとも動かないアンサムくんに近づいていく。
「ほう」「ほう」
二人の刑事はやれやれ、と言った表情でそれを見ている。
「見てください。彼の指さしているのは、壁です」
壁に近づくと、小さな蟻が何匹か確認できた。
「この壁、何か甘いものがぶつかったのでしょうね。蟻が集まっています。そして、」
探偵は、その壁から、アンサムくんのほうを向き直る。
「ちょうど、この壁のシミと、下に落ちているバナナの皮、アンサムくん、花瓶が落ちて割れている位置は、部屋の中で一直線上になっているのです!」
探偵がそう、高らかに叫ぶと、天井があるにもかかわらず、天から光が降り注いだ。
そして、アンサムくんを包み込むと、光の中から、アンサムくんが笑顔で現れるのであった。
「先生、ありがとうございました。また、うっかり、死んでしまいました!」
「君は本当に、いつも危なっかしいのだから、困ってしまうね」
「先生がいるから、安心してあの世へ行けるんです」
「いやいや、私を試すように突飛な方法で他界するのは遠慮してもらいたいものだな」
「どうも、すみません」
「・・・で、もちろん見たんだろう、犯人を」
「ええ」
**
そんなわけで、真犯人は、隣人のジェムリフさんであることがわかったそうです。
二人の刑事が逮捕に向かい、先生とアンサムさんの活躍で一件落着となったとさ。
「はい、記録おしまい」
女の子は、それをファイルに綴じると、事件簿の並ぶ本棚に戻した。
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