店にある茶室に官兵衛は客人に茶を立てていた。
「いやー、久しぶりですなー。半兵衛殿」
茶を立てて、客人である半兵衛の前に置く。
「そうですな。官兵衛殿」
半兵衛は茶碗を両手で持つ。
「いい備前焼の茶碗ですな」
半兵衛は茶碗を見ながらゆっくりと飲む。
「腕のいい焼き物師が焼いた物です」
官兵衛は茶の道具を隅に置きながら言う。
「この播磨でも最近は茶道が流行っておりまして焼き物もいい物が多くなっています」
「それは、それは」
半兵衛は茶を飲むのをやめて、茶碗を置く。
「この姫路城の城下もかなりいい焼き物が揃ってるのが見えました」
「どうですか、暇な時にこの城下に焼き物を揃えてる店を紹介しましょうか」
「そうですね。我が主である秀吉殿も喜ぶと思います」
「秀吉殿ですか」
一瞬だが二人の間に冷たい物が流れた。
「半兵衛殿やめましょう。私は貴方と腹の探り合いをしたくない」
官兵衛は言うと半兵衛は少し口元を崩した。
「そうですね。今は手紙でやり取りとしてるだけですが、私と貴方の中です」
「そうですよ」
官兵衛も口元を崩して二人は笑う。
「では、率直にいいましょう。織田家は本格的に中国方面に進出します」
「やはり、そうですか」
二人は笑うのやめて真剣な顔になる。
「まだ中国方面の指揮する者は決まってませんが秀吉殿になる動きがあります」
「秀吉殿」
「そうです。あと一息で決まります。それを官兵衛殿の助力をお願いしたい」
「それは信長公を説得しろと言うことですか」
「そうなります」
「‥‥‥」
官兵衛は黙り込んだ。気分屋とされる信長を説得しろと半兵衛は平然と言ってくる。それは官兵衛にとっては利用されてるような気がする。
「うーん」
官兵衛は唸りながらも自分の立場を見て考える。織田家が播磨に進出すれば自然と小寺家が案内役になる。
しかしある意味、天下に関わる仕事につけるきっかけになるのではないかと。それに半兵衛殿の頼み。
賭けてみるか
「分かりました。半兵衛殿の頼みを聞き入れましょう」
「そうですか。それはよかった」
半兵衛はほっとした顔して茶碗を持つ。
「しかし、半兵衛殿。もし私が首を横に振ったらどうなるおつもりでしたか」
「その時は頭を掻いて、丸坊主になるだけですよ」
半兵衛は笑いながら茶碗を口に持ってゆく。
「丸坊主ですか。半兵衛殿は坊主になるおつもりですか」
「そうです。まあ、僧として小さい寺で生きてくのも悪くわありません」
「それは」
官兵衛は手をつけた茶器を置く。
「半兵衛殿。信長公とは肌が合いませんか」
「そうですな、しかしあの御方しかこの乱世を治める事はできません」
「そうですか」
半兵衛は飲み干した茶器を置き、官兵衛は茶器を持ち直す。
「しかし、半兵衛殿も肌の合わない信長公を説得しろと無理難題を押し付けますね」
「まあ、私が稲葉山城を落とした時にそのまま天下を取ってはどうかと無茶苦茶な要求をしたよりは楽と思いますが」
「いや、あれは」
官兵衛は茶器を持ったまま慌てる。半兵衛はそれを見てハハハと笑う。
「あの時はお互いまだ若かったからですからね」
「その若さで稲葉山城を奪い、天下を取ろうと語らい合いましたね」
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