電車にて

  • 超短編 701文字
  • 日常

  • 著者: はぎしん
  •  部屋から出ると電車。

     横で誰かが寝ていて、前で誰かがスマホ打っている。小竹向原、と電車が言う。
     もう30度を越えたと言うのに社内は弱冷房で、脇の下がじっとり濡れている。

     座席に座った誰もが寝ている。ベッドでは寝ない。自分の部屋で寝たはずなのに。

     僕のHUAWEIから軽い音がしたので、Pinコードを打ってTwitterを見る。
    「君って自分のディスコード持ってんの?」
    「持ってないよ」
     ゲーム好きのスコットが国境を超えて絡んでくる。
    「じゃあさっきRTしたのは何」
    「何でもいいじゃないか」
    「そんなことよりゲームしないか? 楽しいからさ」
     来月買うよ、と言ってアプリを閉じる。江戸川橋と電車が言う。

     僕は電車によって揺れている。身体が動いている。でも窮屈だ。バックが膝に当たって痛い。見上げると苦しそうな顔の彫像があった。立っている人は全部彫像。座っている人は辛うじて、部屋で寝ない人。次は飯田橋。

     ディスコードを開く。チャンネルを開き自分の部屋に入る。
     僕の部屋で、誰かが僕の知らない予定を話していた。
    「次はいつ会おうか」
    「月曜日の夜、銀座とか」
    「いいね。そこでミートアップをしよう。そのあと打ち上げだ」
     僕はそれを眺める。スクロールしていく。履歴がたくさんある。僕はディスコードを閉じる。そしてRTする。僕の部屋をRTする。

    『大丈夫ですか?』
     OLの彫像が僕に話しかける。
    『降りましょうか? 一緒に。次の駅で』
     次は有楽町。
    『すみません、大丈夫です』
     ありがとうございます、僕は席を立って歩く彫像になる。OLはほっとした様子で座席に腰掛け、部屋で眠らない人。
     電車のドアが開く。慣れない空気と匂いに包まれる。一週間ほど髭を剃っていない。

    【投稿者: はぎしん】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      zenigon

      ディスプレイに映る世界にあるリアル、現実視界に映る、聞こえる、のはフィクション。鏡の向こう側、ではなく、小さなディスプレイの向こう側から世界を観察しているような逆転イメージを感じました。


    2. 2.

      はぎしん

      zenigon さん

      逆転イメージ、という考察は大変興味深いです。新たな側面を教えて下さりありがとうございます。またお願い致します。