黄金夜の博士

  • 超短編 500文字
  • 日常

  • 著者: 3: 茶屋
  • 黄金夜の博士は大声で叫ぶ、世界は暗すぎるのだ。

    黄金の夜は朝を否定する。闇の中であるから黄金の夜は輝くのだ。

    黄金のその果てを博士は模索する。

    世界の為に、まだ見ぬ未来の僕の為に、今もどこかで過去にとらわれた君の為に。

    三千世界を遠眼鏡で見通し、刃を潰したハサミで輝きの欠片を集める。

    黄金夜の博士は自分が誰なのか知らない、博士は最初から博士だった。

    だから喜びも悲しみもない、ただ焦りだけを持つ。

    世界の為に黄金の夜を作るのだ。

    0と1を積み重ね黄金夜の設計図を描いては破る、誰かが喜べば誰かが悲しむ。

    博士はそれが我慢ならない、ただ焦りだけが彼を動かす。

    手遅れになるまえに黄金の夜を作り上げなくてはならない。

    錆朱の外套を羽織り、灰色の夜を破る為に博士は世界を探して、0と1を積み上げる。

    実験を繰り返し、フラスコを幾万回も叩き割る。

    黄金夜の博士は諦めることができない。

    伸ばされた手を掴むために、打ち下ろされた鉄槌に砕かれぬように。

    僕が死ぬ前に、君がいなくなる前に、黄金の夜を作り上げるのだ。

    灰色の世界に博士の声が聞こえる。

    僕の返事は博士には届かない。

    それでも僕たちは黄金の夜を待ち続ける。

    黄金夜の博士が諦めない限り。

    【投稿者: 3: 茶屋】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      zenigon

      太陽をめざすイカロス、のような印象でした。完全なる美しい黄金色の夜、理想郷ですね。


    2. 2.

      茶屋

      >zenigonさん
      感想ありがとうございます。理想郷です。ひたすらにそれを目指すことは難しいので、実現のための妄執のようなものを書きたかったのです。