俺は、長らく人に触れておらず、人の温もりを感じていないことに気づいた。
「人の温もりって、どんなだったかな?」
その感触を思い出すべく俺は、スーパーのレジで、お姉さんからお釣りをもらう際に、どさくさに手を握ってみた。
むぎゅ
「うわあ、お姉さんの手、とても柔らかくて、あったかいですね」
俺は、人の温もりを感じて、思わず感動し、声に出した。
産まれて初めて、母の手に触れた時もこのように感動したのかな?と思った。
スリスリ
さらに手を頬に寄せて、スリスリしてみた。
「お姉さんの手、とてもすべすべですね」
レジの女性「のおおおおう、おっさん何しよん?このどへんたいー、誰かー助けてー!!殺されるー!」
びっくりし、思わず手を離す。
チャリンチャリーン
お姉さんは、握っていたお釣りを床に落とした。
むむ。レジの女性は関西人のようだ。何をわめいている? 怒りたいのはこっちの方だ!せっかく人の温もりを感じて、喜んでいると言うのに、その手がコテコテの関西人の女の手だったなんて、興ざめだ。握って感動したのが、勘違いだったようなものだ。ぬか喜びで、損をした気分だ。台無しだ。
キッ、とレジのお姉さんを睨みつけたが、スーパーの警備員がやってきて、取り押さえられ、俺は警察に突き出された。
警官「お前、どうして女の手を握った。そして女の手を自分の顔に付けたんだ?」
「人の温もりを、長らく味わっておらず、それを思い出したくて握りました。それがとても柔らかく、暖かく、もっとよく感じたくて、スリスリしました。」
警官「レジの女の手をか? お前、その女を前から目を付けていて、計画的に手を握ったんじゃないか?計画的に女の手を頬に擦り付けたいんじゃないのか?」
「それは違う。先にも言ったとおり人の温もりを知りたかったのだ。どうせなら異性の手を握りたかった。どうせ握るなら綺麗めのお姉さんの手を握りたかった。でも、実際に握るととても暖かくて、つい肌の感触を味わいたくスリスリしたのだ。それの何が悪い?手を握ることは犯罪か?スリスリすることは犯罪か?俺には何が悪いのか、サッパリと分からんよ。しかし、残念だったのは、あのいつも笑顔が綺麗なサキちゃんが、実はコテコテの関西人だったこと。それが残念だった。」
警官「女の名前も知っている。それに計画的。『公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例』ならびに『ストーカー規制法』に抵触するから、お前逮捕な。なにが『人の温もり』だ、この変態野郎が!しばらく冷たい飯を食って、反省しろ!」
俺は留置所とやらに入れられた。
その夜、鉄格子から見える月は、とても綺麗だった。
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