ふつうではない

  • 超短編 630文字
  • 同タイトル

  • 著者: ミチャ寺
  • お兄ちゃんが行方不明になってもう半年だ。

    * * *

    「いただきます。」
    家で食卓を囲む度に、私は思い出してしまう。
    4つの席には両親と私だけが座っており、ひとつ寂しげに空いている。
    兄の孝宏が家を出て行方不明になってから半年、未だに顔も見ていない。
    両親は最初は怒っていたが最近は呆れて話題にも出さない。
    この家庭環境というか、家族関係は多分普通ではない。
    どんな事情があろうと兄はこの家の息子であるはずなのに、その家出に対して「心配」の色は見当たらない。
    ある意味兄は家出をして正解だったのかもしれない。あるいはこれこそ兄が家出をした理由だったのだろうか。
    兄は見抜いていたのかもしれない。自分が両親からほとんど見放されていたことを。
    「……行ってきます。」
    いってらっしゃい、という返事は来ない。私も義務教育で通わせてもらっているだけなのだろうか。子どもの私には、それも推測の域を超えることはできない。確かめるのが、怖いのだ。
    「……お兄ちゃん。だから、家出したの?
    私には…分かんないよ。私も出た方が良いの?それともここに居た方が良いの?
    …教えてよ、お兄ちゃん。」
    登校中、思わず声に出して呟いてしまった。
    「えっ、何か言った?ちょっと電波悪くて聞こえなかった。」
    「あっ、ゴメン、何でもない。それよりもね、今日から数学が関数って奴なんだけど…」
    言い忘れたが、兄の行方不明は所在が不明なだけであって、電話すれば普通に出るし、何なら毎日電話やメールをしている。
    この兄、何故か音信不通ではない。

    【投稿者: ミチャ寺】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      howame

      家出しても妹とは音信が途絶えてなかったんですね。ホッとしました^^


    2. 2.

      けにお21

      これは、予想できなかったオチであり、してやられました!

      確かに、これは同タイトル「ふつうではない」にピッタリの作品だと思います。

      ミチャさん、同タイ ピッタリ賞受賞、おめでとうございます☆


    3. 3.

      なかまくら

      最初の悲しい雰囲気の演出から、最後の暢気な兄妹の感じ。
      腰砕けになりました(笑