そのマシンを作ったのは、6歳の少女だった。
* * *
「サヤちゃん!見て!」
親友のカナちゃんがそう言って見せてきたのは、少しツギハギの目立つ小さなUFO。図画工作の得意なカナちゃんの力作だった。
「これね、頭のところがね、パカって開くんだよ」
「わぁ、すごい。さすがカナちゃんだね」
大きさからして手づくりの小物入れのようだった。
しかも、それを開け閉めするためにはこれまた手づくりの鍵が必要になるという末恐ろしいデザインだ。
「これをね、お庭に埋めようと思うの!」
「えっ、埋めちゃうの…?せっかく小物入れとかに使えそうなのに…」
「えへへ、ちがうよ。これにね、宝物を入れてね、20年後の私にプレゼントするの」
いわゆる『タイムカプセル』と呼ばれるものだろう。
UFOの形はさしずめタイムマシンのつもりだったのかもしれない。届け先は未来の自分なのだから、ある意味では時間を超越したタイムマシンとも言えなくわないはずだ。
「なんだか楽しそう。私もやりたいな」
「いいよ!一緒に入れよう!」
2人で小さなカギを手に、笑い合った。
* * *
「あっ、ここだよここ。おーい、サヤちゃん」
「見つけたー?」
20年前に埋めたタイムマシンがふと気になり、私たちは久しぶりに集まっていた。
冷静になったからか淡白になったからか、覚えていても面倒で取りに行こうとは思っていなかったが、お酒で酔ったのが原因で掘り出そうという運びになった。
今まであまり気にしていなかったのに、 いざ引っ張り出すと考えると、楽しみで胸が高鳴る。
私が何を入れたのか実のところよく覚えておらず、カナが何を入れたのかも検討もつかない。
「では、いざ……開封!」
昔作った鍵を取り出して、開けた。
「……あれ?」
開けた…と思ったのだが、何やら苦戦している。
「おかしいな、開け方間違えたかな…
鍵はこれで間違いないのに……」
設計ミスなのか、それとも過去からの挑戦なのか、タイムマシンは開かない。
「どうしようサヤちゃん…」
困り顔で私にタイムマシンを差し出すカナ。
ふと記憶が蘇った。器用だったカナにも抜けているところはあって、作ったものに何か予想外の失敗があったときは、決まって泣きそうな顔をしながら私のもとに持ってきていたのだ。
それを思い出して思わず笑ってしまう。
「ねえ、サヤちゃん!笑いごとじゃ無いんだよぉ!」
酔ったせいなのか口調まで昔のままだ。
まるで心だけタイムスリップしてきたみたいに、私とカナは6歳の頃のようなやりとりをしていた。
「大丈夫だよカナちゃん。これはカナちゃんが作ったものでしょ?
カナちゃんなら、開けられるよ」
「……うん。そうだよね。
さあ、勝負だ!6歳の私!」
開かなくなったタイムマシンは、6歳の頃の私たちが仕組んだ罠。
26歳の私たちが、負けるわけにはいかない。
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