泡に触れるは、

  • 超短編 1,653文字
  • 日常

  • 著者: 春火
  •  扇風機さんが風を漕ぎ、涼しい風を僕にまで届けてくれる。
    おばあさんが腰を屈めながらも、歩いてくれて僕にまでおにぎりさんを届けてくれる。
    「周、おにぎり此処に置いとくね。」
    「ありがとう。」
    そう、僕は喉で波を漕ぎながら、おばあさんに返事をした。
    僕の側におかれた、たくさんの海苔で包まれたおにぎりさんを眺めた。
    (君たちの命は無駄にはしないよ)
    僕は、そう感謝しながら「いただきます。」といって、おにぎりさんを1つ手に取った。
    ムシャリと噛みつくと、海苔が幾重にも巻かれていたこともあってすごく弾力があった。
    美味しくて美味しくて、僕はあっと言う間におにぎりさんを平らげた。
    「ご馳走様でした。」僕はそう言って、喉の渇きを満たすためにと冷蔵庫さんのところまでスタスタと足を運んだ。
    ガラッ、冷蔵庫さんを開けると沢山の食べ物から飲み物までが冷えたまま保管されていた。
    (いつもありがとう。)
    そう思いながら、暫くの間冷蔵庫さんを開けたまま眺めていた。
    ピーッピーッという音を冷蔵庫さんが喋るので、「ごめんごめん。」とよく冷えた麦茶さんを取り出した。
    其の様をおばあさんが見ていたようで、くすりと笑っていた。
    麦茶さんと麦茶を作ってくれたおばあさんに、感謝をしながら僕は麦茶をゴクゴクと飲み干した。

    ギラギラと太陽さんが照りつけていたので、僕は気分転換にと散歩をしようと思った。
    おばあさんの所まで足を運び、「いまから、散歩に行ってきます。」といって、僕は散歩の準備を始めた。
    (持っていく物は、えっと、カメラさんに、音楽プレーヤーさん、それから、、、。)
    支度を終えると、僕は実家さんに「行ってきます。」と残し外へ出た。

    ギラギラと照りつける太陽さんが、そこら中に広がっている緑を煌々と照らしてくれていて何とも其の様が美しかった。
    僕は時折、カメラさんに風景を焼き付けさせてもらいながら、町立図書館さんへと足を運んだ。

    中に入ると、外の世界とは打って変わって涼しい空気が充満していた。
    (エアコンさんやっぱり凄いなあ、、)と感動を覚えながらあまり恍惚とした表情を表に出さないようにと、自然体を装った。

    「あ、周さんだ!」

    と、入るなり僕の名前を叫ぶ女の子の声が聞こえた。
    エアコンに感動していた僕の視点は空を泳いでいたが、声のした方にと目線を落とすと蓮ちゃんが此方に向かってきていた。
    「こんにちは。」
    僕がそういうと、蓮ちゃんは少しどもりながら「こ、こんにちは。」と答えた。
    「きょ、今日は何しに来たんですか?」
    と、蓮ちゃんが僕に難しい質問を投げかけたので、僕は逡巡しながら「・・・散歩の一環です。」と答えた。
    「あ、そ、そうなんですか。」と困った顔の蓮ちゃんは何処か落ち着きの無い様子だった。
    「どうかしましたか?」と言うと、「い、いや別に!」と首を振りながら答えた。
    「何かあったら、いつでも言ってくださいね。」と無責任な言葉を残しながら、僕は図書館の中へと足を運んだ。
    蓮ちゃんの視線がチクチクと僕の背中に刺さっているようにも思えたけど、僕は僕を守る為にと振り返らなかった。

    僕は、何故か蓮ちゃんと離れてからというもの胸が高鳴っていた。
    無関心を貫きたいという気持ちと、発散したいという気持ちが心の中でぶつかり合っていて僕はどの本を手にとっても頭には入ってこなかった。
    僕は自分の限界を知っているし、蓮ちゃんの境遇も知っている。
    助けられないことも知っているし、余計な負担をかけさせることだって知っている。
    其処まで知っているから、此れが恋愛という大正義にみせかけた単なる心理トリック如きで僕は蓮ちゃんを困らせたくは無い。
    蓮ちゃんが僕の事を仮に好きだったとしても、いずれは醒める、まるで泡沫のような瞬間の芸術でしか無い。

    (忘れよう。)

    僕は頭をリセットすると、家に帰ろうと思った。
    図書館から出ようとすると、「ちょっと待ってください。」と後ろから声がかかった。
    振り返らなくても分かる、これは蓮ちゃんだ。
    心がグッと強い力でリセット前へと引き戻される。

    ー此の後、僕は振り返っただろうか。










    【投稿者: 春火】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      なかまくら

      大切にしているようで、大切に出来ていないのかも。大切にされることは苦手なのかも。
      いろいろな想像が湧いてきますね。