誕生日、誰しも一年に一回は必ず訪れるイベント。そのたった一日を特別のものにしようとする。
これは、とある少年少女の物語。
「うーん…今年はどうしようかな?」
私はスマホを片手に放心状態になっていた。明日は、彼氏の誕生日。正式に祝うのは初めてだから、何をしたら喜ぶのか分からない。あいつのことだから、
「誕生日?ああ、何でもいいよ。てか、祝わなくていい」
と、言うに決まっている。だからこそ、何か驚くようなことがしたい。そんなことを考えているのだが、いっこうにアイディアが浮かばない。
「理沙、なにやっているの?目が死んでいるわよ」
「あ、お母さん。ちょっと考え事をね…」
「もしかして、拓人君の誕生日について?」
「うん。折角の誕生日だから何かしてあげたくて」
「それなら…」
何かを思い付いた母は台所から一冊の本を持ってきた。
「これなんかどう?」
表紙を見ると“お家で簡単 ケーキ百選”と書いてあった。
「ケーキか。うん、いいかもしれない。頑張って作ってみる!」
その時、私は忘れていた。人生十七年間の中で一度もお菓子を作ったことが無いことを…
「まずは何を作るのか決めないとね。やっぱり、定番のショートケーキかな?でも、チーズケーキも捨て難いな。どうしようかな?」
「確か、拓斗君そうね…チョコケーキはどう?それなら、材料があるわよ」
「うん、そうする」
「頑張ってね。お母さんはちょっと出掛けてくるから」
「え?手伝ってくれるんじゃないの?」
「彼氏へのプレゼントでしょ?自分で作りなさい」
そう言うと母は素早く身支度を整え、出掛けてしまった。
「薄情者…手伝ってくれてもいいじゃんさー」
こうなった以上一人でやるしかない。レシピを見ながら材料の準備を始めた。家中を探し何とか必要なものを集めた。準備が完了したところで早速作り始めた。
次の日の朝。
帰ってきた母のアドバイスのもと丁寧にラッピングをした箱を持って、いつもよりも早めに彼の待っている教室に向かった。
中を覗くと彼はもう登校していた。
「お誕生日おめでとう!」
私は、ドアを開けると同時に声を掛けた。
彼は驚いたような顔をして、
「おはよう」
とあいさつをしてくれた。
彼の隣に行き、箱を渡した。
「はい、プレゼント」
「ありがとう。開けていい?」
私が頷くと彼は、ゆっくりと箱を開封した。
中から出てきたのはお店で売っているようなケーキ…ではなく、歪な形で少し焦げかかっているケーキだった。
「…」
彼は、それをじっと見たまま動かなくなってしまった。
「拓人、大丈夫?」
「…これ、理沙が作ったのか?」
「うん、そうだけど…上手くいかなかったの。無理して食べなくて
いいよ」
彼の手からケーキを回収しようと手を伸ばした。が、いち早く彼が口の中に入れてしまった。
「あ…」
「……うん。美味しい」
「本当に?」
慌てて彼の齧りかけのケーキを食べた。材料の分量を間違えたせいで甘くなりすぎたソース。オーブンの設定温度と時間を間違えたせいでガタガタになって焦げたスポンジ。
「ふふ。やっぱり、失敗だ」
「確かに失敗してる。俺が作ったほうが上手くできる自信がある」
「うぅ…心に刺さる」
「でも、俺には理沙が作ったものなら何でも美味しいと思える」
そう言うと彼はそっと頭を撫ででくれた。
甘えてくるときは可愛くて、何かに集中している時の横顔はかっこよくて、今日みたいに優しくて。こんな拓人がやっぱり、
「…好き」
「何か言ったか?」
振り向いた彼の顔は嬉しそうだった。
コメント一覧
あまーーーい!!
このケーキはあますぎです!笑
>昔の方が上手い
分かります。なんか、こう、シンプルの強さ、みたいなのってありますよね。