10年桜

  • 超短編 984文字
  • 日常

  • 著者: 3: 寄り道
  • 「また10年後ここに集まろう」
    そう言ったのは、当時の委員長だった。皆で「おー」と大声を出していたら、片思いをしていた女性に、ここに来るように、と呼び出された。
    指定された、桜の木の下で待っていると、その女性が来て、会う早々
    女「10年後、もしまだ互いが独身なら、ここの桜の木の下で待っています」
     唐突に言われて頭が真っ白になりかけたが
    男「分かった。約束な」
と言った。

    ― 10年後 ―

    男「悪い。大事用事があるからここで失礼するわ」
     久々に会った友人に別れを告げて、例の桜の木の下に行った。
     そこには大人びた女性が1人立っていた。大人びているが正しく片思いしていた女性だ。
    女「来てくれたんだ」
    男「うん」
     女性は僕の左手の薬指を見て目を丸くした。
    女「そっかあ。10年って短いようで長いんだね」
と寂しげな声で話した。
    男「ごめん。折角、待ってくれていたのに」

    女「うんうん、謝らないで。私、ここで泣きたくないから」
    男「ごめん」
     もう一度言う。

    女「だから謝らないで。幸せにね」

    涙を堪え、振り絞って出た声だった。

    男「ありがとうな」

    女「貴方の幸せは、私の幸せだから」

    男「ありがとう」
    女「最後に訊いても良いかな?」
    
男「何?」
    
女「結婚の相手って私の知っている人?」
     男は後ろのポケットに手を入れて、持っていたものを女性に見せ

    男「お前だよ」と自分の嵌めている指輪と同じ指輪を見せた。
     女性は我慢していた涙を一気に流した。

    桜の木の下に座る二人。
    女「ねえ、なんで謝ったの?」
    男「その方が、君を驚かせるかなって」
    女「私が相手が誰か訊かなかったら、こんな展開になってないじゃん」
    男「良かったよ。上手くいって」
    女「学生時代の頃から思っていたけど、本当、バカだよね」そう言って、笑う彼女。
    男「バカってなんだよ」彼女を見つめる。
    女「ちょっと待って」男に顔を近づけ「肩に桜の花びら、落ちてた」と親指と人差し指で摘んだ花びらを、男に見せた。
    その瞬間、男は桜の花びらを持っている手を掴み、女性を強引に引き入れ、桜色の唇にキスをした。

    「お〜い、そこのお熱い、お2人さん」遠くから親友が、2人に呼びかける。「2次会行くけど、どうする?」

    男「行くに決まってんだろ。どうする?」彼女に訊く。
    女「行こうか!」

    2人は手を繋ぎ、親友に駆け寄る。

    10年待ってようやく結ばれた2人を祝福するかのように、今年も綺麗に桜が舞っていた。

    【投稿者: 3: 寄り道】

    一覧に戻る

    コメント一覧