バレンタイン

  • 超短編 2,048文字
  • 恋愛

  • 著者: 3: 寄り道
  •  さて、今日2月14日がなんの日だか、みなさん分るだろうか。
    
 そう『バレンタインデー』だ。
    
 女性が男性に、チョコはたまた、何かを秘めたものを渡す日。
    
 恋人に改めて「好き」という気持ちを言葉以外の方法でチョコを渡し、2人の愛を再確認する人もいれば、「好き」と上手く言葉にできない代用として渡す人もいるのだろう。

     そもそもなぜ2月14日に、こんなことをするようになったのかというと...それはまた別の機会に話すとして、まずはこちらの中学2年生の女の子の様子を見て見よう。

     村井ひろ子は、親友である富岡千鶴と明日のことで話していた。
    
「ねえ、ちーちゃん。明日バレンタインだけど、誰かに渡すの?」
    
「渡すわけないじゃん。うちのクラス、っていうか2年の男子にみんなキモい。そうゆう、ひろは渡す予定あんの?」

    「ないよ」大げさに頭(かぶり)を振った。
    
 否定したものの、村井ひろ子には好きな人がいた。
    
 それは、幼稚園の頃からずっと一緒で、幼馴染の倉木健太だった。
    
 幼稚園の頃から頭も賢く、スポーツもできて、村井ひろ子にとって高嶺の花だった。
    
 小学校中学年の頃までは、ちょくちょく一緒に遊んでいたが、学年が上がるに連れて遊ばなくなり、今では近所のスーパーで見かける程度。
会話はない。
     そして、2月14日。
    
 昨日、親友の富岡千鶴と別れたあと、最寄りのスーパーでは友達がいると危惧して、隣町のショッピングモールまで出かけ、買ったチョコを鞄に忍ばせ登校。
    
 手作りのチョコを作ろうと思ったが、恋をしていることを親にも知られたくはなかった。
    
 鞄に忍ばせたチョコをいつ渡すか、その日ずっと、片思いしている幼馴染のことを観察していたが、人気者のため、休み時間はその幼馴染の机の周りには友達が集まり、放課後は互いに部活があるため、2人きりで話す機会がなく、渡せないまま学校を後にした。
    
 家に着き、自身の部屋で綺麗にラッピングされ、リボンも付けてもらったチョコを鞄から取り出す。
    
 今ここでラッピングを取り、好きな幼馴染のために買ったチョコを自分で食べて何もなかったことにできるが、昨日のこれを買うまでの道中を考えると、折角、好きな幼馴染のために選んで買ったチョコを自分で食べるのは不甲斐ないと思い、キッチンで晩御飯を作っている母に「ちょっと出かけてくる」と言って、幼馴染の家に向かった。
    
 幼馴染の家に着く。昔、一緒に遊んでいたときなら簡単に押せていたインターホンを押せない。幼馴染の部屋の明かりが点いていないことを確認する。
 まだ帰って来ていないのかな。もう少しここで待っていよう。玄関先で、寒さを耐えるために縮こまる。

    「何してんだ?ひろ!」
    
 何分待ったのだろう。しかし、そんなことはもうどうでも良かった。好きな幼馴染が目の前にいる。

    「ケンに渡したいものがあって」そう言って、チョコを渡す。

    「わざわざ、これを渡すために、寒空の中待っていたのかよ。寒いだろ?中に入れよ」

    「いいよ。渡したし、帰る」
    
「そっか。ありがとな。っていうかさ、久々にお前と話したな」

    「そうだね。最近、全然話してないし、遊んでないもんね」ちょっとだけ嫌味交じりに言う。

    「まあな。部活もあるし、女と喋っていたら、友達にからかわれるし。でもさ、たまにそこのスーパーで見かけるけど、目合うのに無視するじゃん」
    
 好きな幼馴染と目が合う。それは村井ひろ子にとって、物凄く嬉しいことだったが、恥ずかしさもあり、次第に顔が赤くなる。そんな赤らめた顔を見られるのが恥ずかしいから、視線を逸らすようになった。それが、無視に結びついたのだろう。
    
 しかし、そんなことを正直に話せるはずもなく「ケンが無視しているんでしょう。学校であっても、おう!ってそっけない挨拶して、何カッコつけてるの?」

    「はあ?つけてねぇし。ばっかじゃねーの」

    「もう煩い。そのチョコ返して」幼馴染が持っている渡したチョコを取り返そうとする。

    「返すわけねーだろ。俺がもらったんだ。俺の好きにするさ」そう言うと幼馴染は、綺麗にラッピングされた紙を乱暴に破き、箱の中のチョコをその場で食べた。
    「めちゃくちゃ、美味いじゃん。お前の手作りか?」

    「そんな訳ないでしょう」
    
「だよなあ。お前がこんなに美味い物を作れるはずないもんな」笑いながら、もう一口食べる。

    「じゃあ私、帰るから」

    「ああ、じゃあな」
    
 久々に話せたのに、喧嘩してしまった。
    「好き」という気持ちを伝える以前の問題だった。

     また明日から、話さない日が続くと思うと、心が痛くなり、幼馴染の家を振り返ってもう一度見た。
    
 すると、玄関の前にはまだ幼馴染が立っていて、目が合った。
    
 村井ひろ子は、恥ずかしさのあまり顔を赤らめて、目線を逸らそうとしたが、勇気を振り絞り大きく手を振って、もう一度「じゃあね!」と叫んだ。
    
 幼馴染も手を振り「おう!明日な」と叫んだ。
    
 村井ひろ子は、先程まであった心の痛みがすっと消え、段々と温かくなるのを感じ、帰路に就いた。

    【投稿者: 3: 寄り道】

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