なんせんす

  • 超短編 589文字
  • 日常

  • 著者: 春火
  •  バチチッ・・・、フライパンから油が飛び散り僕の手にかかった。
    痛かった。けれど、不思議と僕は何一つ微動だにせずウインナーを焼き続けていた。

     ジュュウウ~・・・、ウインナーが焦げ付き香ばしい臭いが僕の鼻をくすぐる。
    おいしそう、そう僕は意識しないと本当に美味しそうだとは思えなかった。

     ポタポタッ・・・、僕の瞳から大粒の涙が零れた。
    苦しいよ、僕は何でこんなに苦しいのだろう。

    涙を拭いながら、僕はウインナーが焼き上がったのを確認すると皿へテキパキと盛り付けた。
    ウインナーだけが乗っている皿を眺めて、僕は「寂しそう」と感じたので冷蔵庫から卵を取り出した。

    ウインナーの残した油が残っているので、其れを使って目玉焼きを作ろうと考えた。

     カンカンッ・・・、卵をキッチンの角にぶつけると簡単に罅がはいる。
    意図も容易く、殻をぶちこわして中身をフライパンにぶちまけると勢いよく悲鳴を上げた。

     ジャワアア・・・、余りにうるさく泣くので僕はフライパンに水を掛けて蓋をした。
    泣き止んだ頃、僕はそっと様子をうかがうように蓋を開けた。

    其れを、ウインナーの載った皿に丁寧に僕は盛り付けた。此処で、僕は目玉焼きに味付けをしていない事に気が付いた。僕は、台所の上に置かれた醤油をもつと、綺麗だった2人の間を黒く染め上げた。

    僕は、結局此れを食べることなんて出来なかった。壊すだけ壊して、其れでお仕舞いさ。
    僕が僕でごめんなさい。

    【投稿者: 春火】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      なかまくら

      卵にヒビを入れる辺りで、ああ、なるほど、と伝えたいことがぶわっと伝わってきました。
      君は居ていいんだ、って、食べられる方が言うことはできませんね。ただ、一方的に”ありがとう”というくらいしか。