栗栖の死体がある場所は運がいいことに、枡野が入院しているところで、急いで集中治療室に向かった。
集中治療室の扉が開かれ、そこから物凄く元気な枡野が出てきた。
枡野に向かって話しかけてみるも、こっちを見ようとしない。ここで改めて自分が死んだことを思い知った。声は通らないし、元気になった枡野の肌も触れられない。
そこに1人の男が近づいて来る。
その男を見た瞬間、栗栖は目を見開く。
その男は、枡野が栗栖よりも前に付き合っていた男だった。
枡野からその男の話はよく聞かされた。なんでも、最初は優しくていい男だと思い付き合い始めたのはいいが、次第に暴力を振るうようになり、それが嫌になって別れたらしい。しかし、別れるとストーカーするようになり、警察にも何度も相談したらしいが、一向に取り合ってくれないと嘆かれ「僕が一生傍にいて、守ってやる」と格好つけたのを憶えていた。
その男がなぜここに。
「愛!大丈夫か?」とその男は枡野を心配する。
枡野はその男を見ると「どちら様ですか?」と訊ねた。
「おい!マジかよ。愛と付き合っていた、黒井三太だよ。忘れたのか?」
「ごめんなさい。何も思い出せないの」枡野は項垂れる。
「騙されちゃいけない」そう栗栖が叫んでも、枡野は愚か、主治医やナースにすら届かない。
「そっかあ。物凄く酷い交通事故だったからな。ゆっくりと時間をかけて思い出して行こう」
枡野はこくりと頷いた。
ベッドは個室の病室に入って行く。
栗栖も一緒に入ろうとすると、爺さんに止められた。
「なあ、あの男に見覚えあるのか?」
「ああ。僕の前に愛が付き合っていた男。でも、暴力を振るうから別れたら、そのあとストーカーになったらしい。なんでそんなことを訊くんだ?」
爺さんは、少し黙ったあと重たい口を開いた。
「君を殺したの、あの男だから・・・」
「やっぱり」怒りはそれほど沸いてこなかった。それよりも、折角目を覚ました彼女の傍にいてやれない自分に憤りを感じた。
「なあサンタ」
「なんじゃ?」
「なんで僕の前に現れたんだ?」
「気まぐれじゃな。本来なら、儂らの姿は、結婚した夫婦にしか見えん。まあ、教会で声が枯れるまで泣きながら、お願いしている君が、どうも哀れに思ってな。俗に言う”例外”というやつじゃ」
「じゃあ、サンタなら、なんでも願い叶えてくれるんだよな」
「儂らに不可能はない」
「なら、僕を生き返らせてくれないか?」
「それは、無理な頼みじゃな」
「そっかあ」落胆した。
「先ほども言ったが、儂らサンタクロースには不可能はない。よって、君を生き返らせるのことは訳もない。しかし、サンタクロースがクリスマスの日に与えられるプレゼントは、1人に1つと決まっておる。それは絶対に破ってはいけない、掟みたいなもんじゃ」
「じゃあ、どうすれば」
「来年のクリスマスまで待つしかないの」
「来年かあ……」さらに落胆した。
2ヶ月しか付き合っていなかったが、その2ヶ月の間、誰よりも枡野愛を愛していたのは、栗栖聖也、つまり自分自身であると自負していた。
しかし、枡野が今最高の笑顔を見せているのは、栗栖ではなく、黒井三太であった。
黒井三太は、翌週、妻と離婚し、枡野愛と結婚する準備を始め、拘置所にいる親友である中井俊樹に面会しに行った。
3人にとっては一生忘れられない、2017年12月25日の出来事であった。
完 (つづく、、、かも)
コメント一覧
つづきあるかも!構想があるのですね! 是非、続き、読みたいですねぇ。
それか、成仏できれば、それでも・・・ええ^^;
ううーーん、最後まで読みましたが、バッドエンドで救いがないなぁと。長ければ長いだけ、感情移入しますから、救いが欲しいと思います。それとも、黒井には黒井の事情があるのかなぁ。
初シリーズ完結、おめでとうございます。長いお話を書ききれた時ってうれしいですよね。
読ませていただいて思ったことは、黒井が幸せになったのが意外ということでした。最初、栗栖の恋人が死んだときに、これは栗栖が「恋人の死を乗り越える」か「死を防ぐ」お話なのかな、と思いながら読んだので。
なかまくら > やっぱりバッドエンドはダメですかね。自分も栗栖が幸せを迎えられるように最初は書いていたのですが、色々と設定を決めているうちに、こんな形になってしまいました。
ヒヒヒ > これを完成させたときに思ったのは、来年のクリスマスに、この続きを書こうと思いました。”栗栖が1年越しに命を取り戻す”という話です。そして次の年のクリスマスには”枡野の本当の記憶を取り戻す”という話です。
でも、どちらも何も思いつかないのが現状です。
今年のクリスマスまでには、思いつかせます。