サンタが与えたもの - 第三夜 -

  • 超短編 2,138文字
  • シリーズ

  • 著者: 3: 寄り道
  • クリスマスの日、まだ妻や子どもが寝息を立てている中、目を覚まし、ベッドから出た。
    
 ベッドから出るとき妻を起こしてしまったのか「あなた、もう起きたの?」と声をかけられた。
    「トイレに行きたくて」と寝ぼけ眼の妻を横目に、トイレではなくリビングに向かった。

     リビングにあるテーブルには、1つのプレゼントボックスがあった。包装紙を外して中身を確認するまでもない。中身はもう既に分かっていた。
 『銃』だ。
    
 包装紙を破き、箱の蓋を外し、漆黒に光った銃を手にする。シリンダーを覗き、箱に入ってあった6発の弾丸を、ドラマのワンシーンを思い出しながら、見様見真似で込める。
    
 ハンマーを下ろさず、鏡に写る自分の顔に銃口を向ける。
    
 物凄く撃ちたい衝動に駆られるが、我慢した。目的があるからだ。
    
 サンタクロースと契約するにあたって、絶対に守らないといけないことがあった。
    
 それは“私利私欲目的でサンタクロースにプレゼントを要求しないこと”だ。つまり、子どもが欲しいものだとサンタクロースにプレゼントを用意してもらい、本当は自分が欲しいものであった、は、絶対に許されないことであった。

     もしこれを守らなければ、夫婦は離婚させられる決まりになっていた。
    
 黒井はそのことを知っていて、尚もこの銃を手に入れたかった。
    
 さらにいうなれば、この日のために結婚し子どもを妻に産ませた、といっても過言ではなかった。
    
 その日の夜、目的を果たすため、黒井は街に出かけた。
    
 目的の人物を捜すために。

     誰もいなかった教会に、突如として現れた白髭の爺さん。その爺さんに「何かお困りかな?」と訊ねられた。

    「あなたは一体?」

    「まあ、ここの人だ。それで何か悩みがあってここに来たのだろう?」
    
 怪しかったが、爺さんの優しい笑みに心が開いて行った。
    
 頭では分かっていた。今の状況をこの爺さんに話したところで、何も変わらないことは。しかし話さずにはいられなかった。誰かに話して、心にのしかかっている重荷を少しでも下ろしたかった。

     栗栖は1週間前に起きた悲劇から今日までをずっと話した。その間、爺さんは隣に寄り添い静かに聞いていた。
    
 栗栖の話が終わると、爺さんは不思議なことを発した。
    
「彼女さんの目、覚まさせたいか?」
    「できることなら」涙を流していた目を手で拭う。

     爺さんは、栗栖の両肩に手を乗せ、目をじっと見て「今から儂が手を叩く。すると、彼女さんは目を覚ます」と、とんちんかんなことを言って来たため「は?」と訊き返し、それと同時に怒りが湧いてきた。
    「こんなに真剣に話しているのに、あなたは僕のことをからかうんですね。もういいです帰ります」

     栗栖が立ち上がるのを力づくで抑え「まあまあ、気持ちは分かる。嘘だと思うのも。じゃが、信じてくれ。儂が本当に手を叩けば、彼女さんは目を覚ます」
    
 頭のいかれた爺さんの戯言に付き合っている暇はなかったが、爺さんの力があまりにも強く立ち上がれず、仕方なく爺さんの話に乗ってみることにした。
    
「それで、僕はどうすれば」
    
「儂の目をしっかりと見てればよい。目をそらすんじゃないぞ」
    
 爺さんの目を凝視していると、爺さんは大きく手を広げ、思いっきり手を叩いた。

     すると、栗栖は意識を失った。

     目を覚ますと栗栖は病院のベッドに眠っていた。その眠っている栗栖を、栗栖本人が見ている。
    
 現状を把握できていない。
    
 栗栖の隣に、教会であった爺さんが近づき「君の願いは叶ったよ」と伝えてきたため、栗栖は爺さんに「僕はどうなってしまったんですか?」と訊いた。

    「率直にいうと、死んだな。彼女さんを助けるために、命を犠牲にした」

    「はあ、どういうことですか?」

    「これは君が望んだことだろう?彼女さんの目を覚まさせて欲しいって」

    「だからって、僕を死なす必要ないじゃないですか」

    「命を甘く見るな!」と叱声を飛ばしたあと「儂らも商売でやっている。プレゼントを要求されたら、それと同価値以上のものと交換する。まあ、ほとんどがお金なんだが。でも今回は“心”じゃ。心はお金では買えない。心と同価値なのは心だけじゃ」
    
 栗栖は、自分の亡骸を見て1つだけ腑に落ちない点があった。それは左の胸に空いた穴だった。

    「なあ、爺さん。俺の左胸に穴が空いてるんだけど、これも爺さんの仕業か?」

    「いや、お前の死因は、銃殺じゃ」淡々と話すから、聞き流しそうになった。

    「銃殺!誰に?」

    「顔は見たけど、名前は知らん」

    「なあ、最後に1つだけ訊いていいか?」

    「なんじゃ」

    「爺さんは一体何者なんだよ?」
    
 爺さんは白髭を手で撫でてから「世界中の人たちには“サンタクロース”って呼ばれておる」

     黒井は、目的の人物を街の中で発見し、尾行し、とある建物の前に立っていた。
    
 シリンダーを覗き弾が6発入っていることを確認し、ハンマーを下ろし、その建物の中に入って行った。
    
 目の前に目的の人物が、地面に蹲っていた。その背後にゆっくりと忍び寄り、銃口を向け引き金を引いた。発砲音は外まで響き渡り、銃弾は地面にめり込み、目的の人物は胸から赤黒い血を流し、人形のように床に転がった。

     黒井はそんな光景を見て、声に出して笑い「これでやっと一緒になれる」そう呟いた。

    つづく、、、

    【投稿者: 3: 寄り道】

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