サンタクロースは、ダストボックスから取り出した手紙の差出人のところへ向かい、男と接触した。
「お前か。黒井三太(くろいさんた)というバカげた野郎は」
急に目の前に人が現れ、喧嘩を売られた黒井は、関わってはいけないと思い無視をした。
「悪い。悪い。この手紙に見覚えあるだろう?」
目の前の人が胸ポケットから取り出した手紙を見て、一瞬にして理解した。
「お前、サンタだったのか!でも、契約したときのサンタとは違うな」黒井は目の前のサンタクロースを、下から上へ舐めるようにして見た。
「俺はこの手紙に興味を持ってな。お前と契約を交わしたサンタは知らない。まあ、こんな手紙の内容じゃ、現れないよ」
「ああ、やっぱり。だからわざわざこうして別のサンタが、手紙を返しに来たわけか」
サンタクロースの手にしている手紙を掴もうとしたとき、すっとサンタクロースは手を引っ込めた。
「違う、違う。確認しに来ただけ。お前の子どもが欲しがっているものって、本物の銃なんだな」
「ああ、いくらでも金は出す。用意できるか?」
「俺らに不可能はない」
黒井はにたりと笑った。
その笑みにサンタクロースは何かを察したが、心の中にしまっておいた。
「じゃあ、クリスマス楽しみにしているよ」
サンタクロースは黒井の目の前から、姿を消した。
栗栖はナースから、特別に、ということで鏡越しではあったが集中治療室で寝ている枡野の姿を確認した。
心電図が波打っているため、かろうじて生きていることは窺えたが、全身に包帯が巻かれ、人工呼吸器の他に色々な装置が枡野の身体と繋がり、枡野だと分かる部分は、髪型と泣きぼくろ、だけだったが、2ヶ月しか付き合っていなくても、2ヶ月間ずっと見てきた顔を見間違うはずがない。目の前に寝ているのは、紛れもなく彼女である枡野愛だった。
生きていることに安堵し、ナースに目を覚ますのかどうか訊いた。
しかしナースの返答は「私たちも尽力で枡野さんの治療を行っております。しかし、いつ目を覚ますかどうかは、私どもにも分かりかねます」
「最悪、このまま目を覚まさないってことも」
「分かりません」
栗栖は両手で拳を作り鏡を叩き、額も付けて、声を殺し涙を流した。
その日から栗栖は毎日神社に行き、枡野が目を覚ますように、と拝みに行った。
そして枡野が目を覚まさないままクリスマスを迎え、病院の帰り道、何かに引き寄せられるように、クリスマスだというのに誰もいない教会に赴いた。
栗栖は十字架の前で両膝を地面に付け、両手の指と指を絡め、祈り始めた。
心の中で最初は言葉を発していたが、次第に声を出していた。
「どうか、どうか、彼女を助けて下さい」と何度も何度も声が潰れるまで、祈り続けた。
そして、1人の白髭の爺さんに話しかけられた。
つづく、、、
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