サンタが与えたもの -第一夜-

  • 超短編 2,497文字
  • シリーズ

  • 著者: 3: 寄り道
  • この世にサンタクロースが存在するかどうかは、子どもを授かった夫婦にしか分からない。
     なぜなら、子どもを授かり出産したとき、“本物のサンタクロース”の存在を知り、契約を結ぶからだ。
     契約の内容は、サンタクロースによってまちまちだが、3つほど決まったことがある。
     それは“サンタクロースに不可能はない”ということと“契約違反は即刻離婚”ということ、そして“何事にも例外は存在する”ということだ。
     
     ここにぽつねんと建った家がある。
     話の流れ上、この家がサンタクロースの家なのだが、今年も世界中から大量の手紙が届く。
     それをいちいち封を切って読んでいると時間がかかるので、最近、開発された機械にそのまま投入する。
     その機械とは、封を切っていない手紙を読み取り、住所、年齢、性別、名前、そして何が欲しいのかを一覧表にしてくれる、そんな夢のような機械だ。
     サンタクロース自体が夢のような存在なのだから“夢のような”という言葉を使うのは、いささか不思議な感じがするが、この機械はサンタクロース界隈では衝撃的な発明だった。
    「手紙を読んでいた時代が懐かしいよ」と思いに耽るサンタクロースもちらほら見受けられた。
     全ての手紙の差出人は、子どもを持つ親からの手紙で、子どもの欲しているものを聞き出し、それを手紙で寄越してくる。だから、9割がたクソ真面目な手紙なのだが、中には親バカな手紙も存在する。
    「ほら今年もあったよ。彼女が欲しいです、って手紙」そう発したのは、一覧表として映し出された画面を見ながら、七面鳥を食べ笑っている1人のサンタクロースだった。
    「サンタクロースに頼んでも、頼みの主の好みとか分からんから、どうしようもないのにな」隣のサンタクロースがワインを嗜みながら言う。
    「事細かく書いてもらわないと。スリーサイズとか」
    「そうそう。顔とスリーサイズと性格。あとそれに人種な。そこまで詳しく書いてもらわないと」
    「どうします、この手紙」
    「いつもだと破棄しているから、今年もそれでいいんじゃないか。俺らに不可能はないから、誰でもいいならいいけど、そう簡単にはいかないだろう。女を渡して、好みじゃない、とプレゼントを無下にされたら、俺らのメンツ丸潰れだ」
    「そうですね。それでは破棄しておきます」
     サンタクロースは“彼女が欲しい”と記された項目を手でタッチすると、項目の隣に『削除』と映し出され、続けてそれもタッチした。
     すると、画面の下の取り出し口から、手紙が1枚出てくる。これが、その手紙だ。
     サンタクロースはそれをダストボックスに入れる。
     今年も、ダストボックスが溜まってきている。サンタクロースに頼んだからといって全て実現させられる訳ではない。しっかりと明確に抽象的ではなく具体的に何が欲しいか書いてくれないと、神様ではないのだから分かるはずがない。そういった手紙は、全て破棄する。
    「これも見て下さいよ」サンタクロースは指をさした。
    「親であるにもかかわらず、こんなプレゼント要求するか普通?」
    「子どもがいるからといって、元々頭の悪い人間は、絶対にしっかりとした親にはなりませんから。子どもの要求を聞いちゃうんでしょう」
    「聞いちゃうって、それでいいのかよ。銃だよ銃。親が子どもにプレゼントするもんじゃないだろ」
    「その通り、だからそれも破棄しろ。子どもに銃を与える親がいるか!」
     先程と同様の操作を行い、その手紙をダストボックスに入れた。
     そして、捨てたその手紙を、1人のサンタクロースが取り出す。
     
     栗栖聖也(くりすせいや)と枡野愛(ますのあい)は、まだ付き合って2ヶ月目の、ラブラブ真っ最中のカップルだった。
     栗栖が一目惚れし、何回か話すうちにその思いが募りに募り、10月に告白した。
     最初は戸惑った枡野であったが、告白から数日後、付き合うことに了承した。
     12月に入り、街中がハロウィンから一変、クリスマスカラーに色付き始め、2人もどう過ごすか考えていた。
     そしてクリスマスイブを1週間後に控えた、12月17日。この日は、例年より少し早い降雪を観測し、寒さから外に出たくない栗栖はテレビのニュースを見ていた。すると目と耳を疑うニュースが流れて来た。
    『今朝のすっかり冷え込みにより、例年より早い降雪に見舞われ、お昼頃になると各地の路面で、今朝の積もった雪が凍結し、それにより車のスリップ事故が相次ぎました』とキャスターが話したあと、画面に近所の道路が映し出され『路面の凍結の影響により、午後3時ごろ、凍結した路面で乗用車がスリップを起こしたのち、歩道に突っ込み、歩道にいた枡野愛さん一人が車の下敷きになり、意識不明の重体。警察は車を運転していた中井俊樹(なかいとしき)容疑者を過失運転致傷の疑いで現行犯逮捕しました。中井俊樹容疑者の車は、スタッドレスタイヤに履き替えていないノーマルタイヤだったことから、この事故が起きたものと予想される、とのことです』
     ただ呆然とそのニュースを見ていた栗栖は、ふと我に返り、急いで枡野に電話をかけた。
     同姓同名の人であれ、そう願いながら。しかし、全然電話は通じない。
     手にしていたスマホで、事故現場から近い病院を調べ、家を飛び出した。
     病院に向かうまでの間、何度も電話を試みたが、聞こえてくるのはコール音のみ。そして病院に着く。
     病院内は走ってはいけないため、早歩きで受付へと向かい、枡野愛のことを伺う。
     しかし受付嬢から伝えられたのは「只今、集中治療室にいるためお会いできませ」という虚しい言葉だった。
     栗栖はスマホに入っていた枡野の写真を見せ「この人ですか?」と訊くと「只今、担当しているナースをお呼び致します」と返答された。
     受付嬢に名前を言い、椅子に座りながらスマホを握り締め、別人であってくれ、と祈っていると「栗栖さんですか?」とナースに話しかけられる。
    「はい」勢いよく立ち上がる。
    「もう一度、写真を見せてもらえますか?」
     栗栖は初デートの日に思い出として撮った、プリクラの画像を見せる。
     少しだけ沈黙が続いたあと「この方で間違いございません」暗いトーンで伝えられた。
     その言葉を聞いた栗栖は、膝から崩れ落ちた。

    つづく、、、

    【投稿者: 3: 寄り道】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      ヒヒヒ

      なかなか衝撃的な始まり。この先どうなるんでしょうか。


    2. 2.

      けにお21

      おっと!

      これは、オチが気になります~