大陸から離れた孤島に博士とその助手が住んでいました。
ある日、庭で野菜の手入れをしていた助手のウィルのところへ博士が走ってきました。
「ウィリー君!ついに完成したぞ!!」
「博士、僕の名前はウィルです。いい加減に覚えてください。それに、そんなに大声を出さなくても聞こえます」
「すまんすまん。つい嬉しかったものでな」
「ところで、何が完成したんですか?」
博士は白衣のポケットから緑色の液体が入った瓶を取り出しました。
「これこそワシが長年研究し続けた"才能薬"じゃ!」
「へー」
真顔で瓶を取り上げ、ゴミ箱に捨てようとしたウィルを博士が慌てて止めました。
「な、なぜ捨てるんじゃ?」
「今まで博士が開発した薬品で成功したのは一つもないじゃないですか!」
博士はとぼけた顔をして目をそらしました。
「そうじゃったかの?」
ウィルは深くため息をつきました。
「前回のは僕が間違えて肥料にしたら、野菜が歩き始めました。逃げた奴らを捕まえるの大変だったんですよ」
「…」
「その前のも肥料として使ってみたら、何かの童話に出てきそうなほど巨大な野菜ができました。こんな孤島で犬や猫、鼠を集めるのにどれ程苦労したことか」
「…ウィル君。君さ、ワシが発明したものを
肥料にするの止めてくれんかの?」
博士は不満そうにウィルから瓶を取り返しました。
「僕が思うに博士は農家になるべきです」
「嫌じゃ!ワシは絶対に博士を辞めんぞ」
「そうですか。で、この薬品はどうすればいいんですか?肥料にするんですか?」
「もういい加減作物ネタはいいんじゃないかの?そろそろ飽きてきたよ」
博士は瓶の蓋を開けウィルに渡しました。
「これを飲めば君の中にある隠れた才能が目覚めるのじゃ」
ウィルは半信半疑で瓶を受け取ると、一気に飲み干しました。
「見た目と違ってフルーティーな味わいですね」
「味の感想はいいから、何か変わったことを教えてくれたまえ」
「そうですね…」
ウィルは目を閉じ考え始めました。しばらくすると、いきなり目を開き博士のほうを見ました。
「お!何じゃ何じゃ?」
「もうすぐ雨が降るそうなので洗濯物を中に入れてきます」
「今は洗濯物の事なんでどうでもいいじゃよ。しかも、今朝の天気予報では一日晴れじゃったが誰からそんなことを聞いたのじゃ?」
するとウィルは空を見上げ、飛んでいる鳥を指差しました。
「彼らです」
「うーむ、どうやら君の才能は動物との会話だったんだな。それじゃあ、ワシも飲むとするかの。ウィル君、そこで見てなさい」
「手短にお願いします。洗濯物が濡れては困りますから」
博士はもう一つ瓶をポケットから取り出すと蓋を開け中身を飲もうとしました。しかし、手が滑ってしまい液体を全て畑にぶちまけてしまいました。
「ウィル君すまん。君が育ててた野菜にかけてしまった」
「いいんですよ、どうせ食べるのは僕たちなんですから」
「たしかにそうじゃの」
『ちゃんとしてくれよ、おじさん』
いきなり、足下のほうから聞きなれない声が聞こえてきました。
「あのー、博士。今僕はものすごく嫌な予感がしてます」
「奇遇じゃの、実はワシもそんな気がするんじゃ」
二人は同時に足下を見ました。すると畑の野菜たちが土から出て泥を払っているのが見えました。
『全く、いつまで俺たちをこんな土の中に入れておくんだか』
『水が少ないからお肌がパサパサよ!早くお風呂に入りたいわー』
「野菜が動きましたね」
「…ウィル君。捕まえるの手伝ってる?」
『なあ、俺たちは前の奴らみたいに逃げるつもりは無いぜ』
野菜たちはウィルの足下に群がると必死に説得始めました。
「仕方ないですね。イタズラをせずに、家事の手伝いをするならここにいていいですよ」
『わーい!ありがとう、お兄さん!』
ウィルと野菜たちは家の中に入っていきました。
「いやいや、ウィル君。なんでワシになにも言わないんじゃ!」
雨が降り始めた畑に取り残された博士の叫びはただ虚しく孤島に響くだけでした。
それからしばらくしてこの孤島は、野菜の不思議な肥料を開発する博士とその助手、そして歩いたり話したりする野菜が暮らしている島として、世界中の人から噂されることになったのでした。
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