とある中学校での給食の時間。今日も、クラス内で休みの生徒がいたため、牛乳が1つ余っていた。
そのため、1つの牛乳を巡って『牛乳じゃんけん』が催されていた。
先生の「牛乳欲しい人、集まってぇ~」の声で集まったのが、男子4人と女子1人。
男子の1人が「最初はグー」と声に出すと、残りの4人が「じゃんけんポン」と口を揃えて叫んだ。
勝負は1回で決まった。
勝ったのは、今回の牛乳じゃんけんで紅一点の指宿律(いぶすきりつ)だった。
「また、おめェかよ」1人の男子がぼやく。
「私にじゃんけんで勝とうとするのが、そもそもの間違いなの」律が獲得した牛乳にストローを刺しながら言う。
「りっちゃん、じゃんけん本当に強いよね」律の親友が感心する。
「私、じゃんけんで負けたことないから」
「ほんと、今までりっちゃんが、じゃんけんで負けたところ見たことないもん」
「たまたまだよ」また男子が口を挟む。
「たまたまにしては、りっちゃん、じゃんけん運強すぎない?」
「運がいいだけ。今度は絶対に勝ってやるからな」男子が律の顔に指をさす。
「だから言ってるでしょ。私にじゃんけんでは勝てないって」
「そんなのやってみないと分かんないじゃん」
「それが分かるんだなあ。そもそも、じゃんけんって運の勝負だと思ってない?」
「運しかないだろう。勝てる確率は3分の1。律はたまたま、その3分の1を物にしているだけ」
「そこからして間違いなのよ。じゃんけんは運じゃない、洞察力なの」
「洞察力?」
クラスメイトが、給食の片付けを始めた。
「そう、洞察力。私、相手が出す手が分かるの」
「思考が読めるってこと?」
給食当番の人が、おかずやら味噌汁などが入っていた容器を片付けている中で、残りのクラスメイトは昼休みを迎えた。
指宿律は首を横に振る。
「思考はさすがに読めないよ」そして笑う。
「手の動きを見ているの」
「後出しってこと?」
「厳密にいうとそういうことになるのかもね」
「ずるじゃん」
「ずるも、気付かれなければずるじゃない」
そこに給食当番だった指宿律の親友が「何、話してたの?」と加わって来た。
「律がじゃんけんで勝てる理由は、ずるしてたからって」
「ずるって?」
「後出ししているんだって」
「うそ!?」親友は律に顔を向ける。
「後出しっていっても、あれだよ。相手の手の動きを見てから判断して出しているってことだよ」
「それが後出しっていうんじゃん」男子が突っかかる。
「試しにもう一度やってみてよ」親友がじゃんけんを促す。
2人はじゃんけんを始める。
当たり前のように指宿律が勝つ。
しかし、後出しをしていると言っていても、親友の目から見ては同時に出しているようにしか見えなかった。
親友は何回もじゃんけんを促す。同時に出しているように思える。
「後出ししてないじゃん」親友がいう。
「判断するのはコンマ1秒くらいの世界だから」
「どうして、出す手が分かるの?」
「筋肉の動きを見ているの」
「筋肉の動き?」
「じゃんけんって幸いなことに、グー・チョキ・パー、それぞれ手の動きが全然違うの。そこを見極めているだけ。だから、もし負け続けろっていわれたら負け続けるし、あいこにしろっていわれたら、あいこに出来る」
それを聞いた男子、もう一度じゃんけんをやろう、と持ちかけ「今度は負けて」って言った。
指宿律は言われた通り、負けた。
男子は何度も何度も「勝って」「負けて」「あいこ」を繰り返し言って、じゃんけんを挑み続けた。
指宿律にとっては、いい脳トレだった。
「すげぇな、律」
「私の特殊能力」くすりと笑う。
「じゃんけんを思い通りに出来る能力。凄いけど、使い道少なそうだな」男子が笑う。
「でもこれから先、じゃんけんで物を決めることって沢山あるでしょう」
「じゃんけんで、何かしらのトップになったりしてな」男子が自分で言った言葉に笑い「そんな訳ないか」と自分自身に突っ込む。
すると、授業が始まるチャイムが鳴り、クラスメイトが各々の椅子に座り始めた。
― それから10年後 ―
指宿律は、思い通りにじゃんけんが出来る特殊能力を使って、国民的アイドルのトップになった。
でもその話はまた別の機会に。。。
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