地獄に導く俺の言霊

  • 超短編 3,041文字
  • 日常

  • 著者: 秋水
  • 俺(神庭 周)は、地獄を知っている。
    まぁ、其れが一体どういうことなのかは此れから聞いてくれよ。
    時間はあまり取らせないからよ。だって此処は、超短編が集う場所なんだからな。
     
     昨日、俺が体験した話をもとに解説するのがわかりやすいだろう。
    ちなみに、俺の言う一日が君の感じる一日かどうかは俺の与り知る所ではないけどな。
    え?俺の頭がオカシイのがよく分ったって? はんっ、無知はいいよな。踏み出すのに勇気が要らないから。
    ああ、いいよいいよ。どうせ何言ってるか分かんないだろ。君の目を見てれば分る。
    君は地獄を知らないだけなんだ。いい加減、昨日の話をさせてくれないか。
    超短編にしては、プロローグとなる部分が少々長すぎるような気がしなくもないぜ、へへ。
     昨日、俺は2人の女と出会った。はじめ出逢った方の女は化粧が濃くて声が高い、臭いは甘く暖かいような臭いで、服装はチャラチャラしていて顔つきはアホ丸出し。そんな女に、俺は街を歩いてると突然声をかけられたんだ。何か股間をなぞるような声でよ、喋りかけてくるんだ。
    下から上に舐め回してくるみたいな其れはもう淫靡な響きでよお、ハハ。「おぉにぃさぁん、お酒奢ってえ~」っていうんだ。
    俺は、そんな軽佻浮薄な女に対して大人(ニート)としてしっかりと言ってやったんだ。
    「言葉でなぞるより、手か口でなぞってくれ。まあ足でも良いけどな」
    当然、馬鹿女の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでるわけさ。本当、馬鹿だよな。
    其処で俺言ってやったんだ。「シャブやる暇あんなら俺のシャブってくれよ。馬鹿が。」
    この時俺は、既に気付いてたんだよ。此奴がシャブをやってる女だって事をな。せいぜい、俺にタカるフリして近づいてブローカーに会わせようとかしてんだろうなと、俺は予測していた。そんな俺の予測とは裏腹に話は進んだ。
    「・・・おにぃさん結構鋭いね」そう口にした馬鹿女の顔つきは馬鹿ではなくなっていた。
    「俺を騙そうなんざ1億年はええよブスが。」愛を込めて言ってやったんだ。
    「ねぇ、私奢るから少し飲まない?」この時、まだ午前中でお昼前だぜ。しかも平日。頭オカシイだろ。乗るわけないよな、本当。
    「丁度ブスと酒が飲みたかったんだよ、俺も。」まぁ、そうして近くの昼からやってる居酒屋に入ったんだ。
    入るなり、顔の悪い店主が馬鹿女に「杏、また違う男かあ~」なんて寒い台詞吐くもんだから馬鹿女より先に俺が答えてやったんだよ。「俺が此奴の男に見えるのかよ。主従関係が違うだろ。此奴が俺の女なんだよ。芋ロックでおなしゃす。」
    顔の悪い店主、更には顔色まで悪くしちゃいながらも俺の酒を造ってくれたんだよ。
    おっと、脱線。顔の悪い店主の話じゃなくて女の話だな。
    その女、どうやら"杏"って名前らしいんだけど"馬鹿女"が此処で言う"此奴の名前"だから気には留めなくて良いからな。
    肩パンいれられながらも、席についてようやく話が始まったんだ。
    其奴の第一声なんだと思う?普通は分かんねえよ。
    でも、俺はその時既に分ってたんだ。
    「金なら貸さない。同情もしない。お前には体があるから其れを売って何とかしろ。」
    席に着くなり、そう言ってやったんだ。
    馬鹿女は顔を硬直させながらも、「え、へっ?いきなり何言ってんのよ。ちょっと。」
    なんて言うもんだからすかさず追い打ちだ。
    「何気ない話から其処に持っていきたかったんだろ。違うなら、俺が謝るよ。お前のマリアに俺が謝る。それで許せ」
    馬鹿女、俺の冗談に苦笑いをしながら脱帽と言った眼差しで俺を見てくる。そんな目で俺を見んなっつうのな。
    お前の目に映る俺が俺な訳ないのにな、へへ。
    女が一呼吸して俺に話しかけてくる・・・のとほぼ同時にブサイクから芋のロックが乱暴に机におかれる。「ねぇ、おにぃさ・・ガシャン!!」ってなぐらいでな。
    ったく、ブサイク出たがりですまんな。ブサイク(店主)の癖にイケメン(俺)の話の腰を折るんじゃねえよ。まぁもっとも、腰を頻繁に折ったり伸ばしたりするのはイケメンである俺の特権なんだがな。おっと、脱線。此れはでも、世の中のブサイクが悪いからしょうがないよな。
    そんでまあ、一悶着あって女との話が再開するんだよ。
    「おっさん・・・痛くない?」超いてえよ。あのブサイク、ちょっとボケてやったらマジ殴りしやがって。此れだから、ボケの通じない硬派気取りの低脳ムッツリスケベ君は。それとお前の、"おにぃさん"から"おっさん"にナチュラルに階級さげたのが俺の心を痛めつけてて肉体と精神で相乗効果かかってんじゃねえかってくらい痛えわ。
    「い、いや全然。店主さんとは、し、知り合いなんだね。」
    「うん。3年くらい前、此処でバイトしてたからね。」
    「なるほど。いい上司の下で働けてさぞ光栄だっただろうね。」
    そんな物腰の低い知的なジェントルマンの口調で他愛もない話を繰り返してると、遂にお決まりの流れが来たんだよ。
    「私の家ね、大学にも通わせてもらえないしバイト代全部かっさらうし、最悪なんだよ。」
    馬鹿女は矢継ぎ早に続ける。
    「それで家に帰るのが嫌になって、イケないセックス繰り返して毎日寝る男変えたりしてるウチにドラッグにも手を出すようになっちゃってさ。何処で間違えたんだろうね・・・。やっぱり、親とか環境で全部決まっちゃうよね、実際。」
    息を荒げながらも馬鹿女は必死に続けていた。そんな馬鹿女に俺は告げたんだ。
    「まぁ、水飲みなよ。」
    そういって、左手で芋のロックを彼女に向けて差し出す。
    「て、此れ・・・ハァ。あんたなんかに話すんじゃなかったわ。」
    突っ込む気力すらなくなった挙句、俺を馬鹿扱いしやがって、此の馬鹿野郎。流石にドタマにきた俺は言ってやるんだ。
    「あのな、其れを選んだのはお前だろ。お前の人生ならお前が救わなくてどうすんだよ。
    私の人生終わっちゃいました~みたいな事言いやがってよ。終わってないんだからお前今生きてるんだろうが。結局お前が言いたいのは、お金貸してくださいってことだろ。なげえんだよ、ブスが。お前みたいなゴミに育てられた公害相手に誰が貸すかよ。
    羊の分際で、騙しとろうなんて人様の真似事してんじゃねえよ。」
    声を荒げて、言ってやった。
    そんな俺の立ち回りを見ていたブサイクは、ちらっと確認したところ何処か遠い目をしてやがった。
    俺の言葉を聞いた女は、突然俺の差し出した芋を一気飲みしはじめた。
    勢いよく飲み干すと俺の方みて叫んだんだ。
    「うるせえよ、此のブス!」
    そういうと、金も支払わずに其の店を飛び出していった。
    俺は、ひとつ溜息をつくと立ち上がって何気ない足取りで出口へと向かった。そんな俺の様子見てツカツカとブサイクが俺に駆け寄ってきて言ったんだよ。
    「また殴られてえのか、此のブスが。」ってな。
    流石にカチンと来たから、、、流石にカチンと来た”けど”、暴力怖いし仕方がないので芋の料金と馬鹿女が頼んだカシオレの料金を俺が支払うことになったんだ。「地獄だったな・・・」って呟きながらな。830円の損失、其れに加えて何の利益に繋がることもなかった、馬鹿女との会話に消耗した俺の人生の残り時間。
    ひでぇ、話だろ?
    詰まるところ、地獄ってのは無駄な時間を過ごしている今を指す言葉なんだよ。
    「とんだシャレの効いたギャグだったんだな」って笑い転げてるお前が見れないのは残念だが、笑い転げて居るであろう諸君を妄想して俺は1人天国へと昇らせてもらうよ。ハハ、すまんな。

     また機会があったら、2人目の話もして地獄に突き落としてやるよ。













    【投稿者: 秋水】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      なかまくら

      登場人物に共感出来なかったなあ、という感じでした。
      そんな世界もあるのかもしれないですね。