ある日の休日

  • 超短編 2,736文字
  • シリーズ

  • 著者: リオン
  •  「ふぃ~…、これでよし。」
     土曜日。七宮家の長男・快斗は朝から大忙し。
     妹の小百合はまだ熟睡中。
     「小百合のやつ、もう10時だっていうのに…。」
     時刻は10時15分を回っていた。
     快斗は小百合の部屋に入り、小百合を起こそうとした。
    「まったく…、気持ちよさそうに寝やがって…。」
     快斗は内心で思った事を口走った。
     小百合の寝顔は、まるで幼い子供のような可愛らしい顔だった。
     性別問わず、誰にでもドキッとしてしまいそうな小百合の寝顔。
     兄自身でも、そんな気持ちになりそうなくらいだ。
     小百合はふわふわとした感じが魅力な、快斗の妹。
     快斗自身も妹想いである。
     「小百合ちゃ~ん、朝ですよ~…。」
     「……。」
     当たり前の事だが、小百合は起きない。
     「よ~し、こうなったら…。」
     快斗はポケットから携帯を取り出すと、スピーカーの部分を小百合の耳元へ近付けた。
     そして…。
    ジャッジャアァーーーンッ!!
     「うひゃっ!?」
     携帯の音量を最大にし音楽を鳴らすと、小百合は跳ね起きた。
     「………。」
     突然の音に驚き、小百合は放心状態だった。
     「あはは、ごめんな。小百合が全然起きないからさ。」
     「むぅ~…。」
     「ごめんって!そんな怒るな!」
     小百合は頬を膨らまして快斗を睨んだ。
     自分が気持ちよく寝ていたというのにも関わらず、そんな大音量で鳴らされたら怒るに決まっている。
     「じゃあ、ぎゅーしたら許してあげる。」
     「…はぁ…、しょうがねえな。」
     快斗は小百合に言われた通り、小百合を優しく抱き締めた。
     「んん~…。」
     兄に抱かれて、気持ちよさそうに声を出す小百合。
     小百合は、そんな妹だ。
     「なあ小百合、これでいいか?」
     「だめ…、もっと…。」
     快斗から離れる事ができない小百合。
     服を掴みながらも、快斗の身体に密着する。

     やがて小百合はリビングに入ると、快斗は小百合の朝食を作り始めた。
     小百合は椅子に腰を掛けながら、携帯を弄る。
    チーーンッ
     オーブントースターから、パンが焼けた音が響き渡った。
     「小百合ー、ジャムは自分でつけるか?」
     「お兄ちゃんがやってー。」
     「……。」
     快斗は仕方なく、苺ジャムを選び、パンに塗った。

     「ほら、できたぞ。」
     「んー、ありがとー。」
     「飲み物ぐらいは自分で用意しとけよ?兄ちゃんは…」
     「お兄ちゃん作ってー。」
     「……。」
     小百合はどこもかしこも自堕落で人任せばかりの妹だ。
     「あのな小百合、これから成人になって、一人暮らしするようになったらどうするんだ?」
     「いいもん、大人になってもお兄ちゃんと一緒に住むし。」
     「…お前なぁ…。」
     何年経っても、兄と一緒にいたい妹・小百合。
     快斗は溜め息をついた。

     小百合の朝食を終えると、快斗は自分の部屋で勉強していた。
     快斗は高校3年生なので、受験に向けての勉強もしなければならない時期だ。
     一方小百合は、ベッドに寝そべって携帯を弄っていた。
     自堕落なので当たり前だが、小百合は休日には一切部屋にいたまま。
     自称・引きこもり。
     勉強はしているが、それほどというほどやっていない。
     時々眠る事も。

    プルルル…
     「…ん…?」
     突然、小百合の携帯が鳴り始めた。
     画面には、「あっきーな」と書いてある。
     それは、小百合の友人である、園部 明奈(そのべ あきな)からの電話だった。
     「もしもし…?」
     『あ、さゆりん?今家にいるの?』
     「うん、そうだけど…。」
     『今日せっかくの土曜日なんだし、どこかに出掛けない?』
     「いいけど、どこに?」
     『う~ん、決めてないけど…、まあとにかく出掛けに行こ!』
     「わかった。」
     『じゃあ、お昼くらいに公園で会おうね!』
     「うん。」
     小百合は通話を終えると、快斗の部屋へ向かった。

    コンコンッ
     『はーい。』
     外出の準備を終え、小百合は部屋のドアをノックした。
     「お兄ちゃん、私、今から出掛けるけど…、いい?」
     「別にいいけど、遅くならないようにな。」
     「うん、わかってる。」
     「あと、何かあったら連絡しろよ?」
     「うん。」
     小百合は返事を交わすと、すぐに外に出た。

     「あ、さゆり~ん!」
     「あっきーな~。」
     公園の前に、明奈がいた。
     「早速だけど、お昼食べに行かない?12時過ぎてるしさ…。」
     「んー…、今あまりお腹減ってないかな。」
     「え?そうなの?」
     「だって、起きたの10時過ぎだし、朝ごはんも遅くなっちゃったし…。」
     「さゆりん…、それはいくら何でも遅すぎるよ…。」
     明奈は呆然としていた。
     「まあとにかく、さゆりんがお腹減るまで、どこか遊びに行こ?」
     「そうする。」
     小百合は明奈に従い、歩き始める。

     「あぁ~…、疲れた~…。」
     大あくびをしながら、快斗は背伸びした。
     「そういやもう昼か…。」
     快斗は机に置いてあったデジタル時計を目にすると、12:10と書いてあった。
     快斗は、休日いつもこの時間に昼食を食べている。
     「…何か買ってこよ。」
     快斗は立ち上がり、バッグを背負う。
     昼食を買いに行くつもりだった。

     「ねえねえさゆりん!これ可愛くない?」
     小百合と明奈は、ショッピングモールに来ていた。
     服屋にいた二人であるが、明奈の服を買いに来ているため、小百合は付き添いだ。
     「もうあったかいと思ったからさ、こういう涼しげな服はどうかな?」
     「…あっきーなの好きなものでいいんじゃない。」
     「え~?それじゃ困るよ~。」
     小百合は適当な返事をした。
     ちなみに、明奈が手にしている服は、薄紫色のワンピースの上に、青色デニムの半袖ジャケット。
     明奈はこんな感じの服が好きらしい。
     「何ならさ、さゆりんも新しい服買わない?」
     「え、いいよ私は…。」
     「遠慮しないで!これとかどう?」
     小百合は明奈に振り回されてばかりだった。

     「ありがとうございました~。」
     「これでよしっと…。」
     一方、快斗はコンビニを出たところだった。
     「たまにはコンビニ弁当ってのもいいな。」
     商品が三つ(コンビニ弁当、ジュース、アイス)入った袋を片手に、快斗は家へ向かった。
     「小百合、どうしてるかな…。」
     妹が出掛けているのにも関わらず、心配性だった快斗。
     まあいいかと思いながら、アスファルトの道路を歩き始める。

     「じゃあ、また今度ね!」
     「うん。」
     数時間経って夕方になり、明奈と別れた小百合。
     「お兄ちゃん、心配してるかな…。」
     小百合は買い物袋を持ちながら、颯爽と歩く。

     「ただいまー。」
     「おう、おかえり。小百合。」
     リビングを出た快斗が、小百合を迎えた。
     「小百合、お前は疲れてるだろうから、先に風呂入ってていいぞ。」
     「うん、ありがとう。」
     小百合が帰ってくるまで、快斗は風呂の掃除を終わらせていた。
     しっかり湯も沸かし、いつでも入れるように準備をしてくれていた。

     「……。」
     湯船に浸かっている小百合。
     今日の事を思い出していた。
     (あっきーな…、ほんとに私みたいに、世話焼かすなぁ…。)
     自分もそうだが、友人である明奈も自分と同じだと、確証していた。
     似た者同士とも言えるほどだった。

    【投稿者: リオン】

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