王子様は振られ役(前編)

  • 超短編 2,092文字
  • 恋愛

  • 著者: 蜜鬼
  • 10月31日。この日付を聞くとほとんどの人は"ハロウィン"という単語を思い浮かべるだろう。残りのひねくれ者やイベント事に興味がない人は"10月最後の日"や"ゲームの販売日"などと言うのだろう。
    私、安藤 一花(あんどう いちか)はもちろん…
    後者の人間だ。

    カーテンの隙間からの光が目に当たり瞼を開けた。時間を確認しようと枕の横にあったスマホの電源をつけた。画面には13:43と表示された。
    (あー、もうこんな時間か。少し頭が痛いし寝過ぎたかな)
    今度は日にちをみようと、もう一度スマホを見た。
    (今日は10月31日火曜日か。……ん?火曜日?…っ!平日じゃん!)
    慌てて布団から飛び起き、10分で朝食兼昼食を食べ、5分で身支度を済ませた。もう一回だけ日付という名の現実を確認するためにリビングにある家族別のカレンダーを見た。すると、私の予定のところには"休み"と書いてあった。
    (あれ?休みになってる。間違えたのかな?いやいや、ちゃんと予定表を見ながら書いたんだから間違ってる可能性は低いな。うーん…何か忘れてる気がする…10月31日…あっ!)

    「今日、私の学校は文化祭の振替休日だ!!」

    休みの理由を思い出した喜びのあまり、とっくに仕事に行った両親のいない家で大声を出してしまった。

    私の通っている夏麻高校は毎年10月末に文化祭が行われる。
    各クラスはもちろんのこと36もある部活動も出店しているため、大賑わいとなり外部からの来場客も多い。
    私は今回で2回目と参加となる文化祭ではクラスではなく所属している文芸部の方で部誌の販売を手伝った。部員の人数が少ないわりには優秀な作品が多いということで有名なため、ものすごい数の客が来た。
    その様子を見た部長が調子にのって、その場でイベントを始めるもんだから、さらに忙しかった。
    (月曜日の片付けでもこき使われたし…思い出しただけでムカついてきた!)
    部屋着という名の学校指定ジャージに着替えた後、せっかくの休日を楽しもうと思って自分の部屋に向かおうとしたとき、鞄の中のスマホが鳴り出した。見ると部長からの電話だった。ものすごく嫌な予感がしつつ、ここで無視をすると後が怖いので仕方なく出ることにした。

    「もしもし」
    『あ、一花?今日さ部活の打ち上げやるから18時に夏麻駅に来れるよね?』
    「何で来れることが前提で話が進んでるの?まあ、いいや。でも、どうして夏麻駅なの?」
    『10月31日と言えば?』
    「10月最後の日。もしくは夏麻文化祭の振替休日」
    『そういえば、一花はこういうことに興味がないんだったわね…ハロウィンって単語が出てくるわけなかったね』
    「出てこなくて悪かったわね。それで?」
    『毎年駅周辺でイベントやってるのよ。今年は運良く代休と重なったから参加できるのよ。皆にはもう声かけてあるから。ばっくれたら次回号の部誌全部書かせるからね!じゃぁね~』
    「え、ちょっとまっ……。切られた」

    今の時刻は14時06分。約束の時間までは約4時間。私は体力温存のために再び布団の中に入った。
    しかし、セットした目覚ましよりも早く部長からのメールで起こされた。今から出ると予定よりも早い到着になそうだけど、待つより待たせる方が嫌いなので夏麻駅に行くことにした。
    駅前は平日にも関わらず既に大勢の人で賑わっていた。

    集合場所に着いたが3人の仮装している集団がいたので、少し離れた場所からみんなを待とうと思い、その集団の横を通りすぎようとした。すると、いきなり腕を掴まれた。ビックリして掴んだ人の顔を見た。

    「どこ行くの?一花」
    花「あ、部長か…もう着いてたんだ」

    なんとさっきの仮装した集団は文芸部の部員だったのだ。
    文芸部の部長こと漫画担当の、澤田 舞(さわだ まい)は魔女の仮装をしていた。

    舞「着いてるのは私だけじゃないわよ」
    「一花も苦労人ね。舞に散々振り回されてて」
    花「はは、少しは慣れたよ。それにしても京ちゃんの仮装ってアリス?似合ってるよ」
    京「ありがとう、この日のために作ったんだ」

    手作りのアリスの仮装をしているのは、副部長で随筆担当の、秋月 京子(あきづき きょうこ)。

    「一花先輩!僕のヴァンパイアの仮装はどうですか?」
    花「うーん、裕一君は背が低いから小動物系の方が似合うと思うな」
    裕「えー」

    ヴァンパイアの仮装をし口を尖らせ拗ねるふりをしているのは、後輩の挿絵担当、佐藤 裕一(さとう ゆういち)。

    「す、すまん…はぁはぁ…遅くなった」

    後ろからの声に振り向くと息を切らした人がいた。

    京「岡野君大丈夫?そんなに急がなくてもよかったのに」

    彼は論評担当の、岡野 翔太(おかの しょうた)。私とは家が少し離れているが小学校からの幼馴染みだ。

    舞「なんにせよ、間に合ってよかったよ。さて、これで全員揃ったわね。それじゃあ、せっかくのイベントなんだから全力で楽しみましょう!」
    全員「おー!」
    (各々が出した声のテンションは違えど発してる言葉が揃うのは仲が良いことの象徴なんだろうな)

    それからは色々な屋台を回りながら、焼きそば大食い大会をやったり、たこ焼き早食い大会をやったりと、また部長の思い付きで大会を開いてふざけあった。

    後編に続く…

    【投稿者: 蜜鬼】

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