ロイたちは「どこまでもドア」のドアを開けまくっていました。
「お父さん! こんなんじゃ、間に合わないよ! みっつがKCSを吹っ飛ばした直後に最後のドアを開けたりしたら危ないんじゃないの?」
「そういうことは……」
開いたドアの向こうは、工場のようなところで、
「最後のドアを開く前に言って欲しかったな」
みっつが何かと激しく闘っていました。
みっつが闘っている相手はみっつより小さいものでした。
やがて、戦闘はつばぜり合いのようになって、一時的に停止しました。
「ふ、ふたつ?」
「研究所から盗まれたとは聞いていていたが……」
「えっ? お父さん? ふたつを改造してみっつを造ったんじゃないの?」
「私が、いつ、そんなことをいった?」
「博士! やはり、彼がふたつなんですね? 彼は何でこんなに強いんですか?」
みっつが集中力を切らさないようにしながら聞きました。
「ロイを守れるようにね」
「僕は、何者かに狙われているの?」
「いーや、狙われてない。防犯ブザーを持たせるようなもんだ」
「そういうレベルを遥かに上回っているんですけど? 1小隊なら5秒で潰せますよ?」
「お父さんは何の研究者だったっけ?」
「私は人工知能専門の研究者だ!」
「訳が分かりません! 博士!」
「それは、いい。受け取れ! みっつ!」
「む、貴様、今、何のファイルを飛ばした? 意味不明だぞ?」
「ふたつ、君には分かるまい。なにせ、日本のワープロ専用機『書院』でなければ読めないフォーマットだ」
「博士、なぜ、私に、そんな機能を?」
「やかましい! 現に役に立っとろうが!」
「分かりました。でも、実行は困難を伴います」
「しかし、他に手はないんだ」
「人工知能に似合わない言葉ですが、『頑張ります』」
2体は、大きく飛びのいたと思うと、また、切り結ぶように接触し、また距離を取り……。
そういったことが、幾度となく繰り返されたとき、みっつが工場にあったコードをふたつに投げつけました。
「ふん、こんなもの目くらましにも……」
ところが、コードは意志を持つようにウネウネと動き、ふたつの首の後ろのコネクタに先端が刺さりました。
そして、その瞬間、ふたつの身体は動きを止めました。みっつはふたつが倒れないように支えました。
「仰るとおりに、D2コネクタから、RQフォルダのファイルを全て転送しましたよ」
「良し、これで、10分間は洗脳が解けるだろう」
「うぅ……、私は一体、何を……」
ふたつが正気を取り戻したようです。
「ふたつ! 話している暇はない。このファイルを読め!」
ふたつは青ざめたかったのでしょうか? 震えたかったのでしょうか?
「私は、なんてことをしてしまったんだ……」
「過去は、どうすることもできない。未来を、どうするかだ」
博士が、まともなことを言いました。
「博士、私、発明したんですよ。誰の手も借りずにね」
「ほう! 凄いじゃないか!」
「薬なんです。『夢オチの実』これを飲んで、寝て、目を覚ますと、都合の悪い記憶が夢だったように感じられます」
「便利じゃないか。帰ったら、後始末をして飲んで寝るとしよう」
「……疑わないんですか? 博士。私は……」
「君は、ふたつで、私は博士だ。何を疑う必要がある?」
「私も、みっつのように泣ければ良かった」
ふたつは、みっつに向き合いました。
「この国は、私が正気な内に私が吹き飛ばす。洗脳を解く方法はないのだから、このまま生きるのは死ぬよりたちが悪い。分かってくれるね?」
みっつの頬に涙が伝っていました。
「私に無い機能で、一番羨ましい機能だ。彼らを頼む。私が自爆する前に、ロイと博士を抱えて『どこまでもドア』を逆走して帰ってくれ。ドアは全て開けっ放しにしてきたようだから、君なら可能だろう」
みっつは泣いていました。
「みっつ、泣くのはほどほどにな。前が見なくちゃ、思い切り走れないぞ」
ふたつの最後の言葉を胸に、涙を堪えながら「どこまでもドア」を、みっつは全力で駆けて行きました。
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