勇者が放った秘剣「六甲おろし」が、大魔王の喉をとらえた。
大魔王の破れた喉から血が「ひゅー、ひゅー」と吹き出し、これが六甲山から打ち下ろす強風の音に似ていた。
大魔王を倒した勇者は、意気揚々と、魔王城から町へと戻った。
民A「うおおおおお、勇者様のお戻りだぞお! ってことは憎っき大魔王を倒したんだ! やったああー! 今夜は祝祭だああ」
民B「勇者様ー、よくぞご無事でえええ。感謝いたします!昨日産まれた我が子の名前、勇者様のお名前を付けさせていただきます!」
魔王城から勇者が帰ってきた凱旋初日はこうであった。
~5年後~
民A「ノラクロから新しいヘートテックが出るらしいぞ」
民B「まじか!今度のヘートテック温かいのか?」
民A「ノラクロ史上、最高の温暖化の下着らしい」
民B「それは買いだな!」
民A「うむ、急げー」
民は、世界を苦しめた大魔王のことも、それを退治した勇者のことも、喉元を過ぎていた。平和になていた。
そして・・・
勇者は、4畳半のぼろアパートでふて寝していた。
勇者に、職はなかった。
戦うことしか能がない勇者にとって、平和な世界は住みにくいだけであった。
勇者「あああああ、焼き肉食いてええ!、寿司食いてええ!、金ねえええええ!」
勇者は起き上がり、携帯のガラケー電話を取り出しボタンを押した。
ぴぽぱっ!
勇者「おい、大魔王元気しているか?」
大魔王「おう、兄弟! おれは元気だ。どうしたんだ、いきなり電話してきて?」
勇者「それがさあ、俺が、お前つまり大魔王を倒したばっかりに、世界が平和になってしまったのさ。戦うことしか能がない俺にとって、平和は生きにくいのだ。要するに誰からも相手されない俺、手に職がない俺、脳がない俺、稼ぎがない俺、困っている、食うに困っているのだ。間もなく餓死して死にそうなのだ!!」
大魔王「ありゃま」
勇者「そこでだ!! そろそろお前、蘇ってくれんか、暴れてくれんか、世間を騒がせてくれんか?得意のホラ、おめえの目から発射される破壊光線で、都庁あたりを真っ二つにしてくれんかのう?そうすると、世間は慌てふためき、勇者である俺を担ぐに決まっている。世の中が俺に助けを求めるに決まっている。世界が、勇者たる俺に寿司や焼き肉を食べさせてくれるだろう!」
大魔王「親友の勇者の頼みとくれば聞くぜ!!でも一旦死んだはずの俺、どうやって出てくる?不自然に現れると疑われるのでは?」
勇者「それなら、まず、角を2,3本増やせ、そして全身脱毛してツルツルになれ!見た目を変えろ。次に、隕石の中に隠れて、宇宙から落ちて登場する。どやこの案。名案やろ。前回はお前、確か地底から雄叫びをあげながら登場したよな?今回は空からだ。見た目も違うし、前回のお前とは誰からも気づかれまい。至極、自然や?」
大魔王「ひひひ、お主、悪だ。そうとうの悪だのう。よし、そのかわりワシは人の生き血をたっぷり吸わせてもらうぜ!」
勇者「OKOK! 許可する!たっぷり人の血吸っとくれ! 頃合いを見計らって、俺登場するから、それまでの間存分に人の血吸っとき! でも、俺が来てからは分かっているよな!俺が、秘剣六甲おろしをいつものように放つから、お前(大魔王)は首からひゅーひゅー血を流して大袈裟に倒れるんだぞ。そして消滅したように消える。うまく演技するんだ。手筈、分かってるよな?!」
大魔王「言わずもがな!兄弟!」
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