「私達、どこの誰なんだろうね」不意に、彼女が呟いた。
ワンルームのアパートで、私と彼女は私達が一体何者なのかを証明してくれるものを必死に探してみたのだが、免許証一つ出てこなかったのだ。
自分の名前も、お互いがどんな関係だったのかも、昨日まで何をしていたのかも、そもそもこのワンルームは、本当に私達の住処なのかさえも、何も思い出せなかった。
代わりにインスタントコーヒーとマグカップとやかんを見つけた彼女が、とりあえずコーヒーを飲んで落ち着こうと提案したので、私はコーヒーが苦手だと言うことを言い出せずに今に至る。
ただただ真っ黒な液体を見つめていると、そこに自分の顔が映った。残念ながら、美人じゃなかった。
「ねえ、お願いだから、何か話して」彼女がすがるように言う。「だんまりはズルいよ、今は二人だけなの。貴女としか会話できないの。なんでもいいから言葉を発して。そうでないと、私、本当に一人ぼっちになっちゃう……」
私は頷いた。「ごめんなさい。なんだか、言葉を発することに抵抗があったの」本当のことだった。
「それは、私達の今の状況と関係がありそう?」彼女は急に立ち上がった。「さっき、ノートとペンも見つけたから、取ってくる。他に思い出せることがあったら、書き出してみよう」
「分かった」私は、これでようやくコーヒーが好きじゃないことを伝えられそうだと思った。
書き出した後のノートは思ったほど、私達にヒントを与えてくれなかった。当然と言えば当然なことだが、視覚的な情報ばかりで、本来私達が胸に秘めていたであろう個人情報は何も出てこなかったのだ。
「とりあえず、家と必要最低限のものは揃っているし、電気水道ガスもしばらくは心配なさそうね」彼女が器用にペンを回しながら言う。
私は頷いた。根拠は無いが、私もその点は安心して良さそうだと思っていた。
「貴女、本当に無口ね」彼女が笑う。「元々そうだった? 戸惑ってるだけ? 人見知り?」
概ねのコンピュータSystemに於いて、不要ファイルをゴミ箱に入れると、ファイルネームが消されたデータが残る。
丁度この彼女達の様な状態である。
不幸にもその日は突然きた……
昨日にメモリー破壊素粒子が何処から放射され
マイナンバー類が全てリセットされたしまった。
彼女達が書いていた私小説もそうなった
何かと言うと"落としどころが消えた"のだ。
文明の進歩は便利な反面、恐ろしことが凄まじいスピードで進行し何気なく異変は起こる。
元々が分からないから返事に困っていたら
「グルル」とお腹が頷いた。私は恥ずかしさ紛れにこう言った。
「お腹空いたから買い物にいかない?」
彼女は、笑いながら。
「いいわね…何か食べたいもの思いだすかもしれないね。」
そして、アパートに外に出ると同じ様な人達がたくさん溢れていた。
To Be ……
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