ロイとみっつは海を臨む草原で向かい風を受けていました。
「みっつ落ち着いた?」
「ええ、とりあえず」
「君は、ふたつなの?」
「いや、そんなはずは……、私は人間です」
「なんかここに『世界を滅ぼせる爆弾』っていうのがあるんだけど、これで君が人間かどうか試さないか?」
「君は私を試したいんですか? 殺したいんですか?」
「あははっ、そうだねぇ。これじゃあ、サイボーグも粉々だ」
「私は人間です。大体なんですか! その物騒な爆弾は?」
「いや、昨日、お父さんが『物質転送機の試運転だーっ!』って、KTSって国からぶん盗ったらしいけど」
「一発目の試運転から、いきなり何ぶちかましてんだ! あの博士は!」
そのとき、夜の真っ暗な海の中から、真っ黒な大きな戦闘用ロボットが姿を現しました。
「ヒィッ」
ロイは恐怖で動くこともできません。
しかし、みっつは、右と左のロボットに、それぞれ右腕と左腕を向けると、みっつの手首から先がカクンと直角に下に折れ曲がったと思うと、凄まじい量のエネルギーが両腕の先から放出されました。みっつの両手首が元に戻った時には、左右のロボットの胸部から上は半円に溶けて無くなっていました。
次の瞬間、みっつは右脚1本で空高く跳び上がりました。空中で左脚は光の剣と化し、真ん中のロボットを真っ二つに一刀両断しました。
着地したみっつは大きくジャンプして、弧を描いてロイの隣に戻りました。
「あぁ、この僕がサイボーグだなんてことが、あり得るのだろうか?」
「あるよっ! めちゃめちゃあるよ! つか、それしかないよ!」
「どうやら、発動してしまったようだね」
博士がゴミの山を背負いながら現れました。
「博士! 僕は本当にサイボーグなんですか?」
「あぁ、騙してすまなかった。実は、そうなんだ」
「そんな馬鹿な! だって、僕には感情がある。今だって怒っている」
「君には、他のAIにディープラーニングさせた厚切りジェイソンの感情データが入っている」
「WHY JAPANESE PEOPLE!?」
「しかし、それが命を宿すかどうかは、賭けだった」
「ぼ、僕が人間じゃなかったなんて……」
みっつは、また、涙を流した。
「さぁ、2人とも、今日は、もう、寝なさい」
博士は優しく言った。
「博士、私が助手でもあることをお忘れのようですね? これから『ゆりかえし』が起こるのでしょう?」
「うっ、だ、だから、なんだというのだね?」
「ロイ、博士の物質転送機で物質を取り寄せた数時間後、こちらからも向こうに何かを送らなければバランスが崩れて大変なことになる。それが『ゆりかえし』だ。博士、大方、その大量のゴミでも送り付けるつもりだったんでしょう?」
「えぇ! お父さん! それこそ、世界戦争だよっ!」
「博士、『ゆりかえし』を使って、私がKCSへ行きます」
「行ってどうするんだ? いきなり、敵のど真ん中に出るんだぞ!」
「私は、いろいろ思い出しましたよ。自爆の仕方とかね」
「やめろ!」
「大丈夫。KCSだけをきれいに吹き飛ばして見せます」
みっつは、風よりも早く駆け出しました。
「待てっ」
「待って、みっつ!」
その時には、もう姿は見えませんでした。
「どうしよう? お父さん」
「仕方がない。あれで追いかけよう」
親子は不思議なドアの前にいました。部屋の中に木枠の中にドアだけが立っているのです。
「お、お父さん! もしかして、これは!」
「うむ、追うぞ!」
ロイは、勇んでドアを開けました。
中には、そっくりなドアがありました。
「お父さん? これは?」
「うむ、これは、『どこまでもドア』だ」
「はぃ?」
「とにかく、どこまでもドアを開け続けていけば、世界中にご近所感覚の距離感でたどり着ける発明品だ! 行くぞ!」
(たぶん、つづく)
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