二階から目薬

  • 超短編 440文字
  • 日常

  • 著者: 一禅
  •  とうとう待ちに待った日がきた。二階建ての家を買ったのだ。私は長年の間、二階建ての家が欲しいと思っていた。なぜかって?そりゃあ、もちろん二階から目薬をさすためだよ。必死になって働いて念願の二階建てのマイホームを手に入れた。このために全てを犠牲にして働いてきたんだ。
    私は近くの薬局に目薬を買いに行った。それもうんとスースーするやつを。私の足取りは非常に軽かった。目当てのものを買うと、家に向かった。家に帰る途中、道端に咲く花が目にはいった。花びらには涙ほどの雨粒が日光でキラキラと光っていた。いつもなら気付かないであろう小さな幸せにも私はいつの間にか気付くようになっていた。
     家に着くと、さっそく準備に取りかかった。目薬の箱を空け、二階に行った。しかし、よく考えてみれば一人では目薬を二階からさせないではないか。私はその事に今気付いた。妻も私にはいない。全てを犠牲にしてきたのだから。そのとき私の目からは雨粒ほどの雫が頬をつたり輝いた。それは決して目薬とはちがうしょっぱいものであった。

    【投稿者: 一禅】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      なかまくら

      花が目にはいった、あたりがいいですね。
      物語の時間の流れが一瞬すごく引き延ばされている効果と、
      最後の目薬が目に入らなかったということの対比としても。
      短いですが、よくまとめられているなぁと思いました。


    2. 2.

      けにお21

      なるほど、次作の「糠に釘」を先に読み。
      今これを読んで、初めて目論見が分かりましたw

      私、鈍すぎる。。。

      世の中、思い通り、なりませんよね~

      このように、作者の意図を組めない読者もいるw