とうとう待ちに待った日がきた。二階建ての家を買ったのだ。私は長年の間、二階建ての家が欲しいと思っていた。なぜかって?そりゃあ、もちろん二階から目薬をさすためだよ。必死になって働いて念願の二階建てのマイホームを手に入れた。このために全てを犠牲にして働いてきたんだ。
私は近くの薬局に目薬を買いに行った。それもうんとスースーするやつを。私の足取りは非常に軽かった。目当てのものを買うと、家に向かった。家に帰る途中、道端に咲く花が目にはいった。花びらには涙ほどの雨粒が日光でキラキラと光っていた。いつもなら気付かないであろう小さな幸せにも私はいつの間にか気付くようになっていた。
家に着くと、さっそく準備に取りかかった。目薬の箱を空け、二階に行った。しかし、よく考えてみれば一人では目薬を二階からさせないではないか。私はその事に今気付いた。妻も私にはいない。全てを犠牲にしてきたのだから。そのとき私の目からは雨粒ほどの雫が頬をつたり輝いた。それは決して目薬とはちがうしょっぱいものであった。
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