君が宇宙へ行く頃

  • 超短編 856文字
  • 同タイトル

  • 著者: ミチャ寺
  • 今日は流星群が見えるらしい

    * * *

    「そっちからは見えてる?」
    ケータイの向こう側から美星の声が聞こえる。
    深夜1時を少し過ぎて、街の明かりが1つ、また1つと消えていく。まだ明かりがついているのは俺を含め、まだ社内PCの前で仕事をさせられているガレー船の労働者たちのものだろう。
    「こちらからは見えないよ。流星群の時間、ちょっとズレたのかもな。」
    「えー…眠いんだから早くして欲しいな。」
    「俺に言うなよ。こっちだって早く目の前の仕事を終わらせたいのに。」
    最近のイヤホンは便利なもので、マイク機能がついている。いわゆる「ハンズフリー」とやらだそうだ。手は仕事をして、口は恋人との会話。忙しい社会人にはありがたい機能だが、別の意味で忙しくなっている気がする。
    「まだお仕事あるの?」
    「あるの。」
    「でもその様子だと真人以外は帰ってるんでしょ?」
    「だからまだあるんだよ。」
    「あちゃー……」
    他の社員を恨む気は無いが、それで仕事量が増えるのは納得がいかない。
    「じゃあやっぱり今日は帰れないの?」
    「終電終わってるからな。明日の始発で一旦着替えに帰るよ。」
    「えー…そのときは私が…寝てるかも。」
    美星があくびを我慢するような話し方になり始める。
    「さては酒飲んでるな?」
    「うん。飲んでます。」
    飲んでいた。
    「そのうち眠くなるぞ。流星群見れなくなるんじゃないのか?」
    「もう眠いでーす……」
    ガタンっ!という音と共に寝息が微かに聞こえる。
    「もしもーし、美星?起きてるかー?」
    「むにゃ…泳いでる……」
    どうやらアルコールが回って眠ってしまったようだった。
    そしてタイミング悪く、俺の視界の端を流れ星が通った。
    「あちゃー、見逃しそうだな。」
    美星はどうやらグッスリと眠っているようで、スヤスヤと呼吸が聞こえる。
    「……綺麗だね、ほ……スピー……」
    いや、どうやら夢の中ではちゃんと見ているらしい。いや、先程の寝言からすると宇宙で流星群の中を泳いでるようだ。
    気持ちよさそうに宇宙を泳いでいるのであれば、邪魔をするまい。
    俺は電話をそっと切り、星空観賞を程々に仕事に戻った。

    【投稿者: ミチャ寺】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      鉄工所

      遠そうで
      近い宇宙にほのぼのしましたよ。
      でも、仕事の向こう側か…

      霧中の朝に帰ったら毛布かけてあげて下さいね〜

      夢中で泳いで風邪引かない様に


    2. 2.

      結城沙月

      初めまして。
      会話も本当に話しているようで、頭に入りやすかったです。いかにも仲が良い感じがあります。
      流れ星と言う内容を綺麗に纏めてあって、後味が良かったです。自分も見に行きたくなる作品でした。
      強いて言えば、「」の中の最後に【。】は付けないで良いですね。
      失礼しました。


    3. 3.

      けにお21

      恋人が夢の中で宇宙を泳いでいる、として同タイトルの「君が宇宙へ行く頃 」を満たし、クリア。
      お見事。

      確かに、便利な世の中になり、電話しながら、手を動かし仕事が出来るようになりましたね。

      で、楽になったか、と言うとそうではなく、忙しくなっている。
      技術が上がり、生産性が向上すると、事業主は利益率を上げるため、人員は減らしにかかる。
      労働者には、決して楽ささないようになっている。
      嫌ですよね。

      彼女は、気楽そう。
      そんな彼女とおしゃべりすると、激務の疲れも少しは和らぎそうですねー


    4. 4.

      ヒヒヒ

      仕事のし甲斐があるってもんですねぇ、彼氏さんは。
      ガレー船の漕ぎ手から羨ましがられそうなくらい(笑
      皆さんもおっしゃっていますが、会話が本当に楽しそうです。


    5. 5.

      キノ

      読んだ後にタイトルの深みを感じます。同タイトルならでわの味わい。なんかいい。こういうの書きたい!


    6. 6.

      ミチャ寺

      コメントの返事がことごとく遅くなりまして……

      鉄工所さん、コメントありがとうございます。
      やっぱりほのぼのとした空気が書いている方も楽しいです。
      そして美星に毛布をあげると共に鉄工所さんのコメントに座布団を差し上げたい(笑

      結城沙月さん、はじめまして。コメントありがとうございます。
      会話劇を意識する私にとって最も喜ばしいお褒めの言葉です。
      そして書き慣れてくると「」の終わりに【。】つけるかどうか、どっちだったかなと思いつつ書いてきたもので、ここ数年の気になっていたことが今ここで解決致しました(笑

      けにおさん、コメントありがとうございます。
      ハンズフリーイヤホンは普段私もお世話になっているのですが、作中で批判するという暴挙に出ました(笑
      忙しい中で不意に癒される声を聞くと心に沁みるものがある気がしながら書いておりました。

      ヒヒヒさん、コメントありがとうございます。
      書いていて私も真人が羨ましくなりました(笑
      楽しそうな会話を書くのは私も楽しいです。

      キノさん、コメントありがとうございます。
      毎回同タイトルのタイトル回収は早めに済ませてしまうので、今回は可能な限り引っ張ってみました。


    7. 7.

      なかまくら

      夜に点灯するビルの明かりは、宇宙の星のようで、明かりのついたオフィスは静かで、宇宙の中のように思えるのかもしれないな、なんて思いました。カタカタと作業をする音、それが響く静寂など、音が聞こえてくるような、リアリティがありました。同タイトル、お疲れ様でした。うぬぬ・・・最近、無断欠席気味の私も頑張ろうっと。