朝比奈筧こと私には、今悩んでいることがある。
どうすれば胸が大きくなるのだろうか、なんてしょうも無い悩みでは無い。
どうすれば大人に見られるように成るのだろうか、という悩みだ。
周りの皆を見ていると、私独り置いて行かれたように思えてくる。
おしゃれな服や何処か分らないけど高そうなブランド物を身につけて、すごく大人っぽい。
それが私にはよく分らないから、大人っぽいと形容しているだけかもしれないけれど私は何時まで幼稚っぽさを続ければ良いのだろう。
なんで私が幼稚だと思えるかってことだけれど、周りからもよく言われるし私自身私の姿を見て幼稚だと思えるもの。
勿論、できる限り私だってオシャレをしてきたつもりなのだけれど、周りと比べるとどうしても幼稚なのかなって思えてくる。
これは、単純に自分に自信が無いかとかいうそういう次元の話ではなさそうなのよ。だから、私は困ってる。
皆の真似をしようと思ったこともあるけれど私は其れを着たくないし、着たくないと思ってる以上私が其れを着ている姿を見て違和感を覚えるのは確定事項とも言えるだろう。私は、そんな訪れるかもしれない未来を受け入れようとは思えない。
お金だってかかるしね・・・。
バイトをすれば遊ぶお金も増えて、社会経験を得ることで大人の仲間入りを果たせるのかもしれないけど、大人になりたくて大人になれる物ではないと思うし遊ぶお金が別段欲しいわけでも無い。
暇なら沢山あるのだけれど、私は目的を持って行動を選択したい。
なんて思索していると、突然無音だった部屋にコンコンとノック音が響いた。
お母さんかな・・・と私は思って自堕落な返事をした。
「なに-?」
「僕だよ。いとこの悠朔。」
「えええ、悠作さん???ちょっと待って!!」
私は慌てて、ベッドから起き上がると部屋を見渡した。
ゴミとDVDが散らかったデスク周りを整理すると、そこらじゅうに転がっているぬいぐるみたちを慌てて本棚の上に並べた。
「あはは、いいですよー、ふふ」
悠朔さんは、ドアを開けながら呟いた。
「お邪魔しまーす。」
悠朔さんは、入ったとたん周りを見渡して口元に笑みを作ってこう言った。
「綺麗な部屋だね。」
私も笑みを含みながら返した。
「意地悪すぎません?」
「はは、ごめんごめん」
悠朔さんは、ゆっくりと床に座ると口を開いた。
「学校の方は順調?」
「・・・うーん。」
私は聞かれた質問の意図を即時に考えた。学業のことかな、と考えたので私はこう返した。
「えーと、そうですね。順調です。」
「へえ、それは何よりだ。」
(何よりだって何ですか。私のこと何も知らないくせに。)
私は、ニヒルな笑みを浮かべながら兎に角なにか話さなきゃと口を開いた。
「悠朔さんの方こそ如何なんですか?」
「学校のことかい?」
「はい。」
「うーん、如何なんだろう。最近はずっと行ってないからね。」
「ええ、如何したんですか??」
「学校へ行く目的を既に果たしたからね。辞めようにも両親が五月蠅いから一応席だけは存在してる感じかな。」
「えええ・・。」
「今は何やってるんですか?」
「うーん、旅かなあ。」
(この人は何を言っているんだろう。何か見ないうちに良くない方向に変わってしまったのかな。好きだったのに、ショックだなあ。)
暫し、私が思索していると沈黙に耐えきれないのか悠朔さんが口を開いた。
「今、僕に対して幻滅或いは戸惑いを覚えたでしょうから、一応言うけど僕は狂ってなんかないよ。だから、僕と話そうよ。」
「げ、幻滅なんてしてませんよ。そうですね、久しぶりですもんね!」
「うん、暫くぶりだ。この前君のSNSを確認したところ気になるツイートしてたもんだから、今日は訪ねてきたんだ。」
(勝手に見ないでよ、、こええしきめえ)
「勝手に見ないでくださいよー!恥ずかしい!」
「いやだなあ、勝手じゃ無いよ。僕ら一応フォローしあってるじゃないか。」
(そういえば、そうだった・・・。私だけがフォローしてるんだと思ってた。)
「君のさ『いっそ居なくなりたい』っていうツイートたまたま見ちゃってさ気が気じゃ無くなったもんだよ。」
「やめてー!!そういうとき偶にあるじゃないですかあ!若さ故って奴ですよお!いちいち掘り返さないでえ!」
私は心にも無い言葉でこの場を納めよう、私を保とうと繕った。
私の言葉を聞いて悠朔さんの雰囲気がガラッと変わった。
何というか此れまでは落ち着いている楽しい感じの人だったのに、今の悠朔さんは静かで怖い人という雰囲気だ。
そんな悠朔さんはゆっくり口を開いた。
「何故、居なくなりたいなんて言ったの。」
私は居なくなりたいと呟やいた理由を思い出すまでも無く頭の中に明示した。
「いや、なんか鬱になるときってあるじゃないですか、理由とか関係なく。」
「君は理由もなしに悩む人なんかじゃないよ。」
私はつい、悠朔さんの言った言葉に噛みついてしまう。
「私のこと何も知らないくせに、決めつけないでください。」
「僕は君のことは知らないけれど、君が理由もなしに悩む人じゃないってことは分ってるよ。」
私は、なんでこんな話になってるのだろうと頭を巡らせてみたがどうも巡らないのでただ悶々と無言で俯くことしか出来なかった。
ポンッ
悠朔さんの手が俯いた私の頭の上に乗る。
「大丈夫、大丈夫だよ。」
私は何故か感極まって涙を床にポツポツと落とした。
「大丈夫、大丈夫。」
「泣いたままでいいから、僕の話を少し聞いといてくれないかな。」
私は涙を流しながらも悠朔さんの手が乗っかった頭を縦に振る。
「よし、僕が思うに君は今孤独に悩んでいないか。」
「孤独と言っても、友達の有無だったりではなくて心の拠り所があるかどうかって話。」
「何故、そう考えたかっていうと先ほど此の部屋にお邪魔する際君は暫しの間片付けをしていただろ。片付けが必要なくらい部屋が汚いっていうのは心が多少なりとも心が荒んでる証拠だ。それに掃除の音が聞こえていたあたりはデスク周り。其処にはDVDが積まれてる。映画を沢山見たくなるのは現実逃避或いは、視野を広げることによる現状からの逸脱、或いは単なる映画好き。それにぬいぐるみが床に散らばってたっていうのは音を聞いて直ぐ分ったんだが、ぬいぐるみが床に散らばるのはどう考えたって投げ散らかしたに違いない。まさか、その年でぬいぐるみと遊んでいるなんて事は無いだろうしな。ぬいぐるみを投げ捨てるのは何処にも晴らすことの出来ない鬱憤がそれほどその小さい胸の中に溜まってたからだ。何処にも打ち晴らす場所が無いので君の目に留ったぬいぐるみが投げられたのだろう。この、推測は君が目的主義であるが故に成り立つ推測なのだけれど、違うのなら僕のいうことは素直にスルーしてくれて構わない。時間を取ってすまなかったと謝罪をしてあげたい。」
「けれど、君が先ほど何も言い返すことが出来ず俯いた所をみると君が目的主義であることは確認されたと言っても過言では無いかも知れないね。」
「其処で、問題は君が何で其れを感じているかどうかっていう話なのだが君のSNSを見る限り、君は劣等感を多少なりとも感じていると思える。」
「劣等感を誤魔化すべくの虚栄いわゆる背伸びだったりっていうのが目立つようにも思える。」
「そんなことを言わなくても君は充分立派で魅力的だ。逆に劣等感を背伸びで補うと地面に接する面積の少なさから安定感が失われる。何の安定感かといえば君が君である安定感さ。だから、無茶な背伸びは見てられない。自虐趣味があるのなら、話は別だがね。」
私は彼の話を聞いていて、涙を流すわけでも無く頭の中、心の中に彼の言葉が響くのを瞳孔を大きくしながら感じていた。
彼の話が一段落付いたらしいので私も何か返さなきゃと思って、言葉を発そうとするも言葉が詰まって何故か代わりに涙が出てきた。
何で涙が出るのだろうと考えることすら今の私には出来なかった。
ただただ泣いた。
悠朔さんは、そんな私を見て溜息をつくと涙を流した。
「頼りなくてごめんな。此れまで放っておいてごめんな。よく頑張った。もう大丈夫だよ。」
そう言って、私の体を優しく包んでくれた。
私は、悠朔さんの暖かさに身を委ねてまた大きく泣いた。
悠朔さんは言った。
「此れからは、ゆっくり歩んでいこう。僕で良ければいつでも君を支える。
ずっと前から君のことが好きだった。僕は君を愛してるから、見返りなんて要らない。僕は君を支えたいから行動してる。
君の人生が幸せでありますように。」
私は言葉に詰まった口を無理矢理こじ開けて、泣き顔に笑い顔という色を加えて精一杯の幸せを彼に届けた。
「嬉しいです。私も前から悠朔さんのことが好きでした。いとこっていう関係を前に周りからの目とか貴方がどう思ってるかとか気にしちゃって不用意に近づくことが出来なかったです。そういう感情抜きにしても頼れる方だったので、ずっと頼りたかったんですが貴方のことを思う余り負担にさせたくないなって考えてました。けれど、違ったんですね。本当に嬉しいです。」
私の幸せを受け取って悠朔さんは、泣きながらこう言った。
「君が嬉しいのは何よりだ。独りで抱えることよりも誰かを頼る事の方が案外大事だったりするから、頼れる人が居るなら頼れば良い。その人物が僕であるなら、僕はすごく嬉しい。よかったら、此れから一緒に歩かせてもらって良いかな。」
私は、恥じらいながら返事をした。
「・・・はい。」
彼は、悪戯で可愛い笑みを零すと意地悪く言った。
「よっしゃ、じゃあ散歩しよっか。」
私は思わず「は?」と声をあげていたけれど彼が手を差し伸べるものだから、掴まないはずも無く行く当ても分らない散歩へ出かけた。
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