大嫌い。

  • 超短編 967文字
  • 恋愛

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  • 「あたし別に好きじゃないけど。」
    「なんで好きだったのか分かんない。」
    そうやって嘘を吐いたのは寒い寒い冬の日だった気がする。
    私自身もう疲れていたし、なんだか嫌だったんだ。

    その子を好きになったのは小学3年の春だった。
    理由を問われれば「なんとなく」だったけど、時が経つにつれてそのなんとなくの「好き」は大きくなった。
    廊下で目が合えば幸せ。
    近くの席に座ると幸せ。
    朝の挨拶が返されて幸せ。
    小さな事だったけど、まだ9歳の私には大事な事だった。

    それでも、人をからかうのが趣味のような人はいつだっていて、幸せは崩された。
    ある日彼から貰った手紙があった。
    内容は、「もっと一緒に話したい。」
    みたいな内容で、紙はノートの切れ端だった。
    それでも、幼い私には飛び跳ねるほど嬉しくて、誰にも見つからないように、そっと筆箱の中に隠した。
    けどそれはすぐに見つかってしまった。
    昼休みの中頃、筆箱を机の上に置いたままトイレに行った時だった。
    帰って来た時には、私の筆箱は同じクラスの女子が持っていて、彼からの手紙を、数人でケラケラ笑いながら読んでいた。
    そして私に気づいたら、今度は大声で手紙を読み上げてきた。
    もう流石に我慢ならなかった。
    (後から聞いたが、何故私の筆箱を開けたかというと、ただ鉛筆を借りようとしたらしい。無断で借りられたのにも少し腹はたった。)
    もうそこからは掴みかかるように取っ組み合いになった。私は当時体格が他の子よりも小さい事もあり、すぐに弾かれた。
    何よりも悲しかった。
    幸せは長くなかった。
    彼女の言った「ただふざけただけでしょ?」の言葉が許せなかった。
    私が彼の事が好きだということを広めた彼女が許せなかった。
    だけど私には何も言えなかった。
    もう怖かった。
    どうしてからかうのか、いけない事ではないだろう?
    今なら言えた。
    あの時はただただ、その一件で、誰かを好きだというのが怖かった。

    それからは早かった。
    「好きなんでしょ?」と聞かれるたびに、
    「もう嫌いだ。」
    「なんで好きだったのか分かんない。」
    それだけを繰り返した。


    それ以来、私には好きな人がいない。
    それから私は中学校に上がったが、彼は私立の中学校受験で合格し、今では可愛い彼女が出来たらしい。
    私は今でも「好き」を引きずってる。

    「大嫌い」で「幸せ」だった、
    あの頃の精一杯の「好き」を。
    もう泥にまみれた「好き」を。

    【投稿者: 宵】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      鉄工所

      初めまして

      小さな胸が大きく張り裂けそうな想い
      凄く素直な表現で共感します。

      この頃に恋心は、その後の恋にまして小さいけれど深いですね。

      私も引き出しにしまった物をまた出そうかと思います。


    2. 2.

      なかまくら

      子どもの頃は、ちょっとした弱みを握られるだけでも、クラスの中で居心地が悪くなっちゃう世界に住んでいますよね。
      「好きで何が悪い」って、言えたら良かったのでしょうけど、ふたりとも、まだ子どもだったんですね。


    3. 3.

      けにお21

      好き、をからかってはいけませんよね。
      おかげで、主人公と彼は、幸せなひと時を失った。
      好きって他人に、からかわれやすいもの。なので、他人にバレないようにしなくてはならない

      引きずるものでもある。しかも、タチが悪くナカナカ吹っ切れない。

      そうでした、そうでした。
      読んでて、好きの感覚を思い出しましたよー。

      次の好きは、うまくやって下さい!