冬斗のビデオテープ
メインホールから出ようとすると、レリーフをはめ込む窪みが三つあった。
そのうちの一つは、さっきガレージで拾った物だ。
メインホールからリビングまでくまなく探索すると、リビングの柱時計に振り子がない事に気付いた。
さっきメインホールで取った振り子が使えるのかな…？
私は恐る恐る振り子をかざしてみると…。
ゴーンゴーン
柱時計が部屋中に鳴り響いた。
そして、柱時計の中で振り子が上がり、代わりにレリーフが下がってきた。
二つ目を手に入れた。
二階の部屋に行ってみると、ビリヤードやら何やら置かれていた。
ここは一体…？
私は机にあったビデオテープを手にしてみた。
『冬斗』と書いてあった。
冬斗…、それは間違いなく、私の弟。
弟に何が…？
私はビデオテープを差し入れてみた。
ピーー…
映像が流れ続く。
冬斗『はぁ…、はぁ…。』
画面には、弟の冬斗が息を弾ませながら、カメラに向かって話しかけた。
冬斗『お姉ちゃん…、もしこれを見たら…、もう僕が何を言っても信じてもらえないだろうけど…。』
冬斗『あんな事があったし…、酷い事もした。』
冬斗『でも、これは信じて。あれは僕じゃないんだ。何が起きたのかわからないけど…。』
冬斗『…伝えたい事が沢山あるんだ。』
『そこにいましたか！肝を冷やしたじゃないですか、坊や。』
冬斗『…また捕まる訳にはいかない…！』
どうやら冬斗は、脩司の妻、紗由理に追われていた最中だった。
『ねえお兄ちゃん、こっちだよ。』
映像の中から、不気味な声が聞こえた。
私は廃屋にいたように、無言で映像を眺めた。
紗由理『いい加減にしたらどうですか？これ以上あなたの遊びに付き合うのはもううんざりですよ坊や。』
冬斗『隠れないと…。隠れないと…！』
紗由理『どうして私を困らせようとするんですか？』
紗由理『一体何が気に入らないと言うのですか？家に招き入れて、食事まで与えたのに。』
紗由理『どうしてコソコソ逃げ回るんですか？いいですか？この力は授かり物ですよ？』
紗由理『この家はですね…、あなたが想像もつかないような事が沢山起こったんですよ。』
紗由理『あなたは何もわかってない。それともただ興味がないだけですか？』
紗由理『諒と何か企んでるんでしょう？グルだってわかってますよ？』
紗由理『麗奈って人に何をさせる気か知ってるんですよ？』
冬斗『来ないで…、お願いだから、こっちに来ないで…！』
紗由理『あなたなんか虫の餌にして、残りの肉を庭の肥料にしてやりますよ！』
紗由理『我が家に迎え入れたのに！心から歓迎したのに！！そのお返しがこれですか！？』
紗由理『あの子はですね、あなたを愛してて、「家族になってほしい」って。』
紗由理『それなのに…、あなたは！』
紗由理『あなたは大人しくあの子の力を受け取ればいいんですよ！』
紗由理『愛してるのにどうしてそれがわからないんですか！？』
紗由理『私達を受け入れなさい！』
紗由理『あなたは何もわかってないんです！しかもその事に気付いてもいない！！』
紗由理『ダメダメ、そんなの許しません！そうやって関係ないフリしたってダメなんですからね！！』
紗由理『どこにも逃げられませんよ、坊や！』
紗由理『…どこへ行くんですか？』
冬斗『うわっ！』
冬斗『お姉ちゃん…！お姉ちゃん…！お願い、助けて…！』
冬斗『お姉ちゃん助けて！わあぁぁぁあッ！』
冬斗の叫び声が、部屋中に鳴り響いた。
ビデオが終わったところで、私は開いた口が塞がらない状態だった。
麗奈「冬斗…、どういう事…？」
私は冬斗が気になって仕方がなかった。
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