恋愛不向き症候群

  • 超短編 1,373文字
  • 恋愛

  • 著者: ずか
  • 人の相談やら愚痴やらを聞くことが好きでした。いえ、今ももちろん好きですよ。ですが、私はほとほと疲れ果ててしまったのです。自分から首を突っ込んでおいて何を勝手なことを言ってるのか、そう、貴方様は笑っておられるのでしょう。私も同じでございます。自分のことを嘲り笑いたいのでございます。人からの相談や愚痴を親身に聞いているふりをしていながら、かの御方の内心を盗み見ているような背徳感に溺れていた自分自身を。このようなゲスな人間がいることを、私は自身を通して理解しておりました故、自分の心の中を他人にさらけ出すような失態は晒して来ませんでした。それもあるのでしょう。人の話ばかりきいていて、自分に関心のなかった私には、男の人が怖くて怖くてたまらないのです。友人の恋の相談として私の耳にやってくる殿方は、皆が皆友人たちを怖がらせているのです。友人ゑゝ(A)は別れを告げたのにも関わらず、來音(ライン)でしつこくされたそうで。友人びゐは、愛しいはずの男の重すぎる愛に怯えておりました。他にもおりましたが、皆が皆同じような話ばかりなので、私の中で、世の男は恐ろしい生き物なのだ。私たちとは違うのだ。そう思うようになったのでございます。
    え?なぜそんな相談ばかり受けるのか?あゝ、初めにご説明するべきでした。元々の私の性格はと言いますと、恥ずかしながら何も誇れるものがないような、見ての通り平凡などこにでもいる大人しい女なのでございます。教室の端の方で大人しく本を読んでいるような女なのでございます。教室の皆は、このような私も仲間に入れてくださいます。そこでそこそこ親しくなった友人に、私が尋ねるのでございます。すると、彼女達は生き生きと、又は暗く重く、口を開いてくれるのでございます。私のような影の薄い人間にこそ、話せる内容なのでございましょう。もしくは、私にはこの内容を話すような友がいないと思っておいでなのでしょう。こういうことですので、私は相談や愚痴を聞けるのでございます。
    話を少し戻させて頂きます。そもそも...あゝ、なぜこの話をしているか聞きたがっていると思いますので、先に少し、お話させていただきます。私は、先ほど「自分の心の中を他人にさらけ出すような失態は晒して来ませんでした」と言いましたが、いよいよそんなことを言ってられなくなったのでございます。はい。不安になったのです。なんだかんだと騒ぎ立てても、私が女であることに変わりはございません。女の仕事は、子供を産み、子孫を残すことであると考えております。ですから、私のこの「世の男を怖いものだ」という考えをどうにかして否定していただきたいのです。なぜ貴方様にお話しているのかと言いますと。簡単なことではございますが、私が貴方様を信頼しているからでございます。ただそれだけなのです。貴方様は私を見つけてくださいました。日の当たるようで当たらない薄暗い森の住人を。この私を。それだけで、信頼するには十分なのです。
    ですから、どうか貴方様。私の考えを改めさせてください。その場で、叫んでください。私の名とともに。そうすれば、私の耳にも届きます。
    若奈

    封筒の中に手紙を入れ直し、僕は大きく息を吸った。
    どうか彼女に、届きますように。僕なりの精一杯の解決方法が、日の当たるようで当たらない薄暗い森の中に木霊した。

    【投稿者: ずか】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      けにお21

      旧字体がチラホラと、手紙の女性がいじらしくて奥ゆかしい。

      明治、大正、昭和初期を感じさせられました。

      出産、育児を女の仕事と考えているところもレトロ。
      でもって、男性恐怖症を治したい一心で手紙を送る。

      しかし、これは口実。
      目的は意中の男性に手紙を送ることであり、求愛のアクションと読む。
      つまり恋文でなかろうかと。

      そのように考えると、手紙を書いた女性は一見奥ゆかしく見せて、実は積極的!

      本作末尾の文章から、手紙をもらった男性の返事はおそらく、「私があなたの男性恐怖症を治してみせます!」でしょう。

      この恋は成就しそうに思う。

      もっとも男性も願ったりに思えました。

      と、言うことでお幸せに〜


    2. 2.

      ずか

      けにお21さん
      コメントありがとうございます!

      そこまで深く考えてくださるとは思ってませんでした!嬉しいです