薄暗い部屋の中で、僕はある動画を覗き込んだ。
それは丁度、3年前に撮ったもの。
冬斗『お姉ちゃん元気?』
僕のお姉ちゃん、麗奈に向けてのメッセージだった。
冬斗『どうしてもお姉ちゃんに、愛してるって伝えたくなって連絡してみたんだ。』
冬斗『あ、いいニュースだよ!もうすぐ家に帰れる事になったんだ!』
画面の中の僕は元気そうに笑っていた。
今見直すと、後悔が増す一方だった。
冬斗『待ち遠しいな。こんな子守みたいな仕事を終わらせて、早く素敵なお姉ちゃんに会いたい。』
冬斗『…寂しいな。』
冬斗『…もう仕事に戻らないと。大好きだよお姉ちゃん。早く会いたい。離れていても、お姉ちゃんを想ってるから。』
向こうの僕がそう言うと、一つキスをいれた。
相手が、お姉ちゃんだったから。
冬斗『それじゃあね!』
冬斗「…。」
動画が終わると、僕は息を弾ませながら、録画に入った。
冬斗「…お姉ちゃん…、…お姉ちゃんに…、…僕、嘘をついた。ごめんなさい…。」
動画では家に帰れると言っていたが、何かしらの事件により、帰れなくなってしまった状態でいた。
冬斗「このメッセージをもし、見てるなら…、」
冬斗「僕を探さないで…!」
僕は、お姉ちゃんに僕の事を…、
忘れてほしかった。
~麗奈side~
父親(電話)『はい。』
麗奈「うん、私。麗奈だよ。」
父親(電話)『ああ、大丈夫か?昨日は急に帰っちまって…。』
麗奈「うん、私は心配ないよ。大丈夫。話があって…。冬斗がまだ生きてたの。戻ってきた。」
父親(電話)『見つかったのか?どうやって?何があった?』
麗奈「詳しい事はわからない。わからないけど…、とにかく彼から連絡があったの。何かの悪戯かもね。でも、迎えに来てくれって。」
父親(電話)『彼はどこに?』
麗奈「東京。関東地方だよ。」
父親(電話)『3年も経ってるんだろ?』
麗奈「うん、わかってるけど…、本当に彼なら?何があったのか知りたいの。」
ブオォーーン…
私はとある森林を、車で通っていた。
弟を探すため。私は冬斗に呼び出されていた。
麗奈「…ここね。」
森林の奥底に車を停めると、嫌な感じがあって仕方がなかった。
無数のハエが飛ぶ中、私は冬斗の所へ向かった。
やがて屋敷の前に着くと、冬斗のバッグが落ちていた。
中には、黒くこびりついた冬斗の生徒証明書が入っていた。
私は、冬斗はこの屋敷の中にいるんじゃないかと思いながら、屋敷の中に入っていった。
ボロボロの部屋を探し回って、冬斗の居場所を探す。
私は部屋のすぐそこにあった鍋に手を差し伸べた。
開けると、何匹のゴキブリが鍋の中から生きて出てきた。
麗奈「…!なによ、もう…!」
怒りながら腕に乗ってきたゴキブリを振り払った。
2階に行くと、机の上にビデオテープがあった。
『廃屋取材』という名前が書かれており、外見も薄汚くなっている。
私はビデオがある部屋に行き、ビデオテープを差し入れた。
カチャッ
ピーーー…
不穏な音が耳をつんざく。
映像が始まると、見知らぬ3人組が映っていた。
『…こいつ大丈夫か?』
『心配するな高橋。』
『良いか?素人はいらないんだ。ヘマするなよ?アマリロの二の舞はごめんだ。ちゃんと音を拾え。』
『2年も前の話だろ?』
『アテレコはしない。』
映像の中は真夜中。
どうやら真夜中に撮られた映像らしい。
『こんな奴…、認めないぞ。』
『またかよ。』
「いつでもお前をクビにできるんだぞ。』
柄が悪い。
私はそう思っていた。
『…確認だ。屋敷内を一通り映して、導入シーンを撮る。』
『いつも通りだろ?なあ、今度はちゃんとタイトル考えてくれよ?』
『心配するな。今宵のスーワ・ゲーターズは、クソったれゴミ屋敷の情報満載!』どうだ?』
『…最高だ。』
私は無言で映像を眺めてばかりだった。
『回ってるか?よし、行くぞ。』
ガチャッ、ガチャッ…
『うぅ~ん…!』
『ちょっとどいて。』
ガチャッ、ガチャッ…
『…閉まってる。』
ガタンッ!
とか言いながら、一人が蹴ったら開いた。
何を馬鹿な事を…。
『…先どうぞ。』
『で、何でボロ家なんかに?』
『資料読めよ。』
『必要ない。ただの幽霊屋敷だろ?子供だましだ。』
『何で俺が…、生徒会長なのに…。』
『週末の代理だろ?メインじゃない。』
『あ?』
『…別に…。』
『今度のシナリオは?』
『廃墟の農家に消えた家族、怪しい事件の臭い。お決まりさ。』
『この家はいつから廃墟だって?』
『3年前だ。』
『如月、これ撮ってくれ。繋ぎの画になる。』
『…つまり、田舎モンが謎の失踪ってわけか。』
『田舎モンじゃない。水島家だ。脩司と紗由理夫妻。静かに暮らしてたようだけど…、娘の愛梨は悪い噂の多い…ギャルだったらしいな。』
『あぁ!…なんだよ…。いい靴なんて履いてくるんじゃなかったよ…。』
『これは酷えな…。病気になっちまう。』
『…けどまあ、いい背景が撮れそうだ。宮城、どう思う?』
『…宮城?』
『宮城…?…宮城!』
『如月、宮城見たか?』
『どこ行った?…たく、何考えてんだあの野郎。あいつとはもう仕事しねえぞ。』
『プロデューサーはいくらでも替えがきくんだ。カメラマンのお前と違ってな。』
『ちゃんと着いて来い。』
ガタンッ!
『何だ今の?聞いたか?』
ガチャッ…
『宮城?どこ行った?』
『宮城どこにいるんだ!』
『何だこれ…?』
ガチャンッ!
『…マジで勘弁してくれよ。よし、こうしよう。』
『宮城を見つけて屋敷を出よう。動画はもういい。』
『先に行け。俺が梯子を降りるから、その画を撮るんだ。だから…、先に行け。』
『見えるか?何だ?』
グチャアッ…!
『うわあぁーーーーーーーーッ!!!!』
ザザザ…
『ウワアァーーーーッ!!!アァ…!!』
叫び声を上げた所で、映像が終わった。
耳をつんざくような叫び声だった。
麗奈「嘘でしょ…!?」
私は足が震え、立てない状態だった。
~プロローグ1 end~
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