3匹の子豚の家探し

  • 超短編 1,968文字
  • 日常

  • 著者: マキロイ褒成
  • 昔あるところに3匹の子豚がいました。
    子豚たちは、紙と木で出来た家で生まれ育ち、成人するまで実家で暮らしていました。
    成人すると、3匹はそれぞれが就職をし、家を出ました。
    3匹とも将来は自分の家を建てたいと思っていました、そして、格安のアパートに住み貯金をしました。

    最初の子豚は、少しでも早く自分の家を持ちたかったため、とにかく安く家を建てる方法ばかりを考えていました。
    そして、施工費1,000万円を切る価格に惹かれ、実家と同じような、木と紙と1枚窓で出来た家を建てました。
    住み始めた頃は、新築の快適性に満足していました。しかし、やがて冬がやってくると、この子豚は愕然としました。
    床が冷たいため、どんなに暖房を入れても部屋は一向に暖かくならず、光熱費もかさむばかり。
    冬場、家にいるときはずっとソファーで毛布に包まる生活を送りました。
    夏場は、換気が行き届かない屋根裏のスペースが、カビや湿気の温床に。安価な素材の木もすぐに朽ちてしまい、雨漏りまで始める始末。
    この子豚は、家の光熱費や補修の事で頭が一杯で、毎日ストレスフルな日々を過ごしました。
    結局、この子豚は定年まで勤め上げた後、孫の顔を見ることなく69歳にてヒートショックにより他界。
    家もその寿命を向かえ取り壊され、結局この子豚は自分の子供たちに財産を残す事ができませんでした。

    2番目の子豚は、人に流されやすい性格でした。
    周りの友達が、家を建て始めたので、そろそろ自分も建てようかなと思い立ち、今住んでいる駅のそばで購入できる家を検索。
    分譲住宅でリーズナブルな物件を見つけ、若干奮発しましたが、ローンが通ったため購入に踏み切りました。
    しかしこの数年後、この子豚はこの物件の落とし穴に気がつくことになりました。
    駅近くは土地代が高く人気がり、業者は数を捌く為にトータルの価格を抑えてしまう傾向があったため、住宅の性能に関わる部分のコストが最小限まで削られていたのです。
    この住宅の気密・断熱性能は非常に悪く、導入が安価な電気式床暖房や、各部屋にエアコンなどの設備で、住宅の性能の悪さを補っていました。
    また、換気設備からは、花粉やPM2.5などの外部からの有害物質が入り放題で、家族はアレルギーに悩まされました。
    冬場、家の暖房機能をフル稼働すると、電気代は月々3万円~4万円もかかってしまっていました。
    やがて、不景気がやってきて、この子豚は家計を削る事を余儀なくされました。そこで、白羽の矢が立ったのが電気代。
    電気式床暖房や、エアコンの使用を控え、家族はみんな極力リビングで過ごす日々。
    本来、居住空間であるはずの各居室はデッドスペースとなってしまいました。
    そして追い討ちをかけたのは、オイルショックと大震災。電力の供給が不安定な時期が続きました。
    この子豚は、急いで太陽光パネルの設置をしようとしたのですが、太陽光パネルの価格は高騰、どこも売り切れ状態。
    住宅を売って、マンションに引っ越そうと考えましたが、このような時代遅れの高燃費住宅には買い手は付きませんでした。
    この子豚は、定年まで勤め上げた後、80歳まで生きましたが、体質上、暖房などをケチる癖が付いてしまっており、
    「この家はあまり快適ではない」と、孫たちもあまり遊びに訪れる事もありませんでした。
    この子豚の余生は、それは寂しいものとなってしまいました。

    最後の子豚は、検討に検討を重ねた上、補助金を利用して高性能住宅を建てる事にしました。
    補助金をうまく利用したこの子豚は、2番目の子豚とさほど変わらない金額でこの家を建てる事に成功しました。
    ZEH住宅も検討しましたが、業者は太陽光発電ばかりを勧めてきて、家の性能の事を本当に考えていなかったため、高性能設備を多く取り揃えた、ニアリーZEHの住宅を建てました。
    この子豚が建てた家は、高気密高断熱仕様。窓はトリプルガラス。
    地熱利用のヒートポンプ、太陽光発電に、太陽熱温水器を備え、熱交換換気により排気のロスを減らした作りで、外部からの花粉やPM2.5などの有害物質も除去しました。
    寒い冬にも、エアコン1台で家全体を快適な温度に保つことが出来る程の高性能で、この子豚は、ほとんど光熱費をかけることなく快適な日々を過ごしました。
    家全体に温度差が無いため、冬場にも各居室を有功に使用する事ができ、子供たちも勉学に集中できたため、国立の優秀な大学に進学する事ができました。
    この子豚は90歳を過ぎても健康を維持し、結局95歳で孫とその子供たちに見守られて大往生を遂げました。
    不景気にも、オイルショックにも、大震災にも動じず、家族の健康と財産を守ったこの家は、50年後、この子豚の孫の代まで引き継がれ、
    子供も孫も、住宅ローンに苦しむことなく、豊かで健康的な人生を送り、この子豚の子孫は繁栄したのでした。
    おしまい。

    【投稿者: マキロイ褒成】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      けにお21

      もはや、子豚じゃないじゃないですかw

      しかも、(金持ってて)賢い家選びができる子豚が幸せな人生を歩むことが出来る、って終わり方は、オリジナル通りと言えばその通りだし、実際人間の家選びでもそんなもんだろう、とも思う。

      正解だからこそ嫌らしいw

      子豚を人にするとこんなにも嫌らしくなるものかw

      さらに95歳の子豚って、「もはや老豚じゃん!」って突っ込みたくなりました。

      とにかく、楽しめ・笑えました。

      しかし、何だか悔しいので、「家選びで人生は決まらない」とだけ言い残すこととするw


    2. 2.

      なかまくら

      家を建てたら、オオカミが来たりはしないんですよね。
      もっと、現実的な障害が襲いかかってくる^^ 童話のほんわかとしたイメージとそこからの、シビアな現実のギャップが面白いですね


    3. 3.

      ヒヒヒ

      笑いました。
      ヒートショックにより他界とか、暖房費の高低とか、妙なところに現実味があるのが面白かったです。