空はどこまでも青かった。
マヨシは、手に持っていた布袋を振り回し、走っていた。真っ直ぐに空を見ていた。青い空、何層もの雲、その雲の向こうにうっすらと光る銀色の影、聞こえるはずもない機関音を聞いていた。
政府は必死に隠すが、その存在は多くの星の、多くの人間達が知っていた。エグリオ。巨悪を徹底的に削り取り、世界を真球のごとく、平らかな世界にする義賊の名だ。その船は、銀色の卵形だと聞いたことがあった。
その船が、いま、この星に来ているのだ。
マヨシは、やがて立ち尽くし、速い呼吸を繰り返しながら、見えない水平線、遠く建物の影に消えていく船を見送った。
星に降りるときには、補給と人員の募集だという。だが、どこに降りるかは、誰にも分からない。光学迷彩の装甲板がその姿を包み隠してしまうからだ。
マヨシは、今のこの星の政府のやり方に最早我慢がならなかった。人民は働く場所を失い、飢え、そして生きるために盗みを働き、そして殺されていく。豊かなるものはそれを豊かなるもののために使う。マヨシはこれまで仲間を集め、レジスタンスを幾度となく結成したが、学生が終わり、大人になると、皆、離れていく。その繰り返しだった。
最早、これまで・・・と思ったところに、船がやってきたのだった。いまが決行の時だと思った。
マヨシは、ある早朝、何かを探すように周回を繰り返す船がやってくるのを待った。船が低い軌道を飛んでいた。タイミングを見計らって、政府施設に火をつけた。爆発が起こり、大きな狼煙が上がる。自分たちはここに居るんだ、貴方がたの同士となるべき男が、此処に。大声で笑いながら、大きく手を振って、銀色の卵形の船を見上げる。その表面に、マヨシの顔がいびつにうつっていた。
止まることなく通り過ぎた船から、落下傘で何かが落ちてくる。
その箱を開けると、その星の地図の上で、小さく爆発が起きて、消えた。
コメント一覧
SFですね〜
昭和の学生運動も見えました。
権力への反発、社会を良くするぞ、との思いからの運動。
若さ。エネルギー。
乱世や、社会がイマイチな時に、本作のように若者が真剣に考え、立ち上がるものかも。
今の社会は、取り敢えず平和なので、若者は社会を変えようなどと考えず、自分のことを考えてるかも?
さて、主人公は宇宙人の手を借りて、高い志である?世直しを計ろうとしたが、宇宙人は関係なしで主人公をやっつけた。
虚しい結末w
>けにおさん
感想ありがとうございます。私はマヨシになったつもりで、書いていました。当然味方になってくれると思っていたら、死にました。そんなもんかなぁと、思ったことで生まれてきた作品でした。
マヨシにとっては間違いなく正義に見えたものも、エグリオにとってはそう見えなかったのかなと思いました。
志は高かったのかもしれないけれど、少し、不器用過ぎたのかもしれません。でも、そんなものなのかもですね。
>ヒヒヒさん
感想ありがとうございます。そうなんですよ、そうなんです。
だから、小さな人、なんですよね。大きな人はすごいなあって思います。
その表面に、マヨシの顔がいびつにうつっていた。←うーん。この表現がいい!おそらくエグリオにとっても、彼はいびつな存在だったのかな、と。彼は死を予感しないまま死んでいく。虚しさがドシっと伝わってくるいい作品でした。
>キノさん
感想ありがとうございます。
短編って、短いだけに、細かいところに行き届いて面白いですよね。
本当はもう少し長い作品でもそれができたらいいんですけど、長いと作者も読者も疲れちゃうんですよね。そこに壁がある気がします。
単純にエンターテイメントを、と思ったのですが、こうなりました^^